財務・税務戦略

「電子帳簿保存法」 ~現実的対応~

財務VOL.168

今号では、前号において概要を紹介した「電子取引データ保存制度」について、国税サイドが想定している具体的な対応方法と、直近の改正内容(緩和・猶予)を踏まえ、中小企業として取り得る現実的な選択肢について考察してみました。

1.電子取引データとは
前号でお伝えした通り、令和6年1月1日より、「電子取引データ保存制度」の義務化が行われます。
これにより、電子的に授受した取引データは、データのまま保存しなければならなくなるのですが、では、具体的にはどういったものが「電子取引データ」に該当するのでしょうか。

対象となるのは、注文書契約書送り状領収書見積書請求書・電子契約書などの書類(取引情報が含まれる書類は全て)で、次の電子的方法により授受したものを指します。

①電子メール 

②HPからのダウンロード 

③クレジットカード利用明細

④交通系ICカードの支払いデータ 

⑤スマホアプリの決済データ

⑥ネットバンキングの振込データ 

⑦DVD等の記録媒体

①電子メールについては、請求書等が添付ファイルとして送られてきた場合、本文に取引情報が含まれないのであれば、添付ファイルのみ保存しておけばよいこととされています(無論、両方保存でも可)。

②HPからのDLについては、領収書等をPDF形式でDLできるようにしている事業者もありますが、Amazonなどでは注文履歴から領収書を発行しようとすると、紙での印刷画面が表示されます。
そのような場合には、出力先をプリンターではなく「PDFに保存」とすることでPDF形式での保存が可能です。または画面をスクリーンショットして保存することも認められています。
上記の取引の中には、院長先生自ら携帯等でネット取引をしているケースも多々あろうかと思いますので、その場合、先生自らが保存対応を行うのか事務に任せるのか等の検討も必要になってこようかと思います。

2.改竄・削除の防止
これについては、実際に実行し得る最も現実的な対応として、国税庁が公開している「事務処理規定※」を備え付けて、それに基づき実際に運用して頂くことが必要となります。
(※)電子取引の範囲、保存対象となるデータ、管理責任者及び処理責任者の任命、訂正削除を行う場合のルール等内部手続きが規定されている

3.見読可能装置の備付け、検索機能の確保
保存した電子取引データは、税務調査の際に、調査官に提示・提出することが求められます。
その際に求められるのが、パソコンやプリンターなど電子取引データを出力して確認できる設備(見読可能装置)の備付け、及び、検索機能の確保です。

(1)見読可能装置の備付け
まず見読可能装置について、これ自体は上述の通りですが、規定ではそのPCやプリンターの操作説明書の備付けも求められています。
操作説明書はオンラインマニュアルでよいので、アプリのヘルプやメーカーのHPからDLして入手しておけば問題ありません。

(2)検索機能の確保
次の3要件での検索ができることが求められます。

① 「取引年月日」「取引金額」「取引先」を条件とした検索

② 上記のうち二以上の任意の項目を組み合わせた検索

③ 日付又は金額による範囲指定検索

これは次のような規則的なファイル名を付すことで対応が可能です。

例) 2023年4月11日 100,000円 A商事㈱  ⇒ 「 20230411_100000_A商事㈱ 」

※) 月日の数字が1ケタの場合は4月→04のように入力する
※) 年は和暦ではなく西暦を使用する
※) 法人名の表記は統一する
※) _(アンダーバー)-(ハイフン)又はスペースで区切る

4.緩和・猶予規定とそれを踏まえた現実的な対応方法について
さて、ここからが本題ですが、令和5年度税制改正にて、上述の「検索機能」又は、「改竄・削除の防止」を含めた両方を不要とする改正が行われています。

(1)「検索機能」が不要となる場合(緩和)

次のいずれかに該当する場合

① 2期前の売上高が5,000万円以下

② 売上高に関係なく、次の要件を満たしている
「電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしている者」

(2)「検索機能」及び「改竄・削除の防止」が不要となる場合(猶予)
改竄・削除防止検索機能などの要件を満たせないことにつき、所轄税務署長が相当の理由があると認める場合(事前申請等は不要)、かつ、税務調査の際にデータのダウンロードの求め及びそのプリントアウトした書面の提示等に応じることができるようにしている場合

「相当の理由」が何を指すかは今後の情報提供を待たなければなりませんが、おそらく殆どの中小企業が該当するような状況を想定したものと考えられますので、上記の内容に即した対応を取るのが中小企業にとっては現実路線と思われます。
なお、いずれ再び改正が入る可能性もゼロでは無いですが、今回の猶予規定には期限が設けられていないことから、事実上の恒久化との見方もあります。
とは言うものの上記(1)(2)の対応とともに「電子データを保存する」という新たな対応義務は免除されませんのでご注意ください。

最後に、「電子取引データ」の対応についてまとめです。

① 電子データは洩れなくプリントアウトし、書面として提示、提出ができるようにしておく

② 同時に同電子データは別途PDF化等によりデータとしても保存しておく必要があり、税務調査の際に「ダウンロードの求め」に応じられるようにしておく

いかがでしょうか?国が意気込んで進めてきた電子化の着地点としては、中小企業などの実務上の負担を考えた現実的なラインに落ち着いてきているといえるのではないでしょうか。

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