労務・人材活性化

1on1ミーティングは組織作りの第1歩

経営VOL.172

先日、クライアントであるH理事長から「自分は今年で65歳となり、これから自分の仕事を徐々に減らして勇退に向けて準備したいが、今まで全く組織というものを作って来なかったので、これからどのようにすれば分かりません。どのような組織にしていけば良いでしょうか」というご相談を頂きました。
詳しくお聞きすると、スタッフの陣容は概ね30名ながら、一部、ベテラン職員や勤務医に任せている業務はあるものの、まだまだ自分でやっている仕事が多く、これをどのように手放せば良いか、誰にどのように依頼すれば良いか悶々としていたとのことです。これまでの経験上、自分が「依頼」したとしても、それは「業務命令」となり、通常業務で一杯であるにも関わらず無理にさせれば辞めかねず、「理事長は自分が楽をしたいから私たちに仕事を振っている」と不平不満を持たれても診療所経営に影響が出てしまうので…、とのことでした。
これは、最近、中・大規模に発展したクリニックさんからよくあるご相談で、これまで弊社にてお手伝いさせて頂いたことも多い内容ですので、この機に、今号にて、このような状況となった場合の解決手順をご紹介させて頂ければと思います。 

【手順①:誰に何をやって欲しいのか具体的に列挙】
まず、これまで、理事長は「業務を依頼したい」と漠然とお考えでしたので、現在、理事長が抱えている業務の中で、具体的に何をお願いしたいのかを列挙して頂きました。
その結果、確かに30名規模の理事長が自ら行わなくても良いような雑務(郵便の仕分けや、求人の段取り、書類作成、業者対応等)だけでなく、現場把握(本来であれば主任クラスが行うようなスタッフのフォローやミーティング等)もありましたので、次に、これらを誰に依頼するかも書いて頂き、さらに、どのような反応を示されるかの予想もして頂きました。 

【手順②:該当する「依頼者」にヒアリングを実施】
次に、理事長が業務を依頼したいと考える該当者に、現在の業務状況の確認と、理事長が考えておられること、そして、そのためにお願いしたいことを丁寧に説明したところ、ほとんどのスタッフさんは理事長が想定する反応(驚き・拒否・渋々)とは逆で、スタッフ間でも、理事長の年齢から色々と大変そうなので、こちらに任せてくれたら良いのにという話はしていたそうで、むしろ、ベテランのスタッフさんは、ことあるごとに「やりますから言って下さいね!」と声掛けまでしていたそうです。これはH理事長にとってはありがたい結果でした。

 【手順③:業務依頼者が動きやすいように「役職」を作る】
ヒアリングの結果を受け、概ね、皆さんが業務を引き受けてくれるということが分かったので、次は、皆さんが動きやすくなるために「役職」を設けました。つまり、理事長からの依頼であったとしても、中には「なぜ、あなたに言われなければいけないのか」「なぜ、あなたの言うことを聞かなければいけないのか」と不信感を持ったり、反発したりする人もいるかも知れません(理事長のクリニックにも想定される予備軍はいました)。
そこで、「組織図」を作成し、それぞれの部門に「長」を置き、指示命令系統を明確にしました。そして、理事長は、その「部門長」にだけ指示をしたり報告を受けたりすれば良い形とし、実務については、それぞれの「部門長」の権限で現場に落とし込んでもらうという形とし、医療法人の全体的な話の報告や共有は、定期的な理事長と部門長による「経営会議」にて完結することとしました。
ゆくゆくは、この部門長の中から「統括職」を選び、実質、現場の運営を任せ、理事長は総括とのやり取りだけを行うようにします。
この形ができると、理事長が勇退しても統括によって現場が回る「持続可能な組織」となるのです。

【なぜ、今まで何も進まなかったのか?】
これまで、優良な人材を抱えていながら、理事長が思っているだけで何も進まなかったのは、色々な要因があります。

まず1つは「あれこれ考える前に自分でやった方が早い」と思ってやってしまう「自分でやった方が早い病」であったこと、そして、当然、まだまだ体も元気であり「勇退」と口にしてみても実感として現実的に受け入れられていないこと(まだまだ先と思っていること)、そして、多くのスタッフが機嫌良く働いてくれている状況を下手なことを言って壊したくないという「現状維持バイアス」が働いてしまっていたこと等が考えられます。

先述した、組織作りの手順も大切なのですが、その前提となる信頼関係醸成のためにも、まずは、自分がどう思っているのか、何を望んでいるのかを1on1ミーティング(個別面談)という「場」で定期的に伝えることが何より大切です。
昔から「水は方円の器に随う」と言われるように、人は役割を与えられたら、その器(環境)に合うようになっていくものであり、経営者自身の言葉で語ることが他者の借り物の言葉よりも響きますので、お悩みの先生は現状維持バイアスを打破し1on1を行い、組織作りの1歩を踏み出しましょう!

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