労務・人材活性化

診療中にスマホを使用する「是非」について

経営VOL.182

今回の話題は、ここ数年、急速に増えた「診療時間中におけるスマホの取り扱いについて」のご相談で、診療所内での使用を禁止したり、一定のルールを定めたり、既に対応済みの医院さんも多いのですが、未だにご相談が絶えません。と申しますのは、ルールを定めても「このような場合はどうなるのですか?」「このような場合、手元になければ困るのですが?」等、「ああ言えばこう言う」状態で、日々、対応に苦慮されている院長が未だ多いからなのです。 そこで今号では、これからもご相談があると考え、それに対応する善後策の参考に、これまでお受けしたスマホに関するご相談の「整理」及び「まとめ」を作成しましたので、是非、対応に苦慮されている先生はご高覧頂ければと存じます。 

【スマホを診療室に持ち込みたいスタッフの主張とは?】
まず、これまでにあった、スタッフが主張する「スマホを診療室に持ちこめないリスク(デメリット)」を集めてみました(↓)。

① 緊急連絡を受けられない(幼稚園・学校・病院等)
② 緊急情報(Jアラート)が受けられず身を守れない
③ ロッカーに置いておくと盗難(情報漏洩)の可能性
④ 即座に調べものができない(患者対応が遅くなる)
⑤ 業務の重要メモ・タスク管理をスマホでできなくなる
⑥ いざというとき(犯罪発生時等)に録画ができない
⑦ 何か起こった後の「証拠写真」をすぐに撮れない
⑧ クレーム時のやり取り等、必要なとき録音ができない
⑨ 外人さんが来た場合に翻訳が使えず通訳できない
⑩ SNSの投稿(院長業務)をスマホからできなくなる

まだ、これ以外にも、スマホの電卓が使えなくなると不便(値段を患者さんに聞かれたときに即座に計算できなくなる=電卓を持ち歩いている訳ではないので)、医院の電話回線が少なく、患者さんのために回線を空けておく必要があるため、スマホを持っていないと緊急時に何か連絡する必要がある場合(設備の故障・PCの不具合、操作方法、アナフィラキシーショックが起こった場合の救急連絡等)対応が遅くなる、患者さんに快適な環境を提供するため、常に湿度を見て空調に気を配る必要がある…、という医院にとって必要と思われるものや、中には、「日々、健康に働くため万歩計代わりにスマホを持ち歩き、それを励みに日常業務で走り回っているので、それがないとモチベーションが下がるんです…」という完全にプライベートな理由を持ち出すスタッフもいました。    

【そもそも、診療室に私物を持ち込むとはどういうことか?】
万歩計は別としても、その他の主張は、それ相応の理由があるように聞こえますし、また、スマホは今やほとんどの国民が保有する生活に欠かせない機器ですので、もちろん使えば便利であることに論を待ちませんが、それでは、その便利さを業務に活かすためと称し、全員が診療室で診療時間内に自由に触るようにした場合、どのようなリスク(デメリット)が想定されるか。これは考えるまでもなく、下記の3点です(↓)。

① 患者さんの前でスマホを触る姿が目立つ医院になる(業務使用かどうか傍目には分からない=不愉快)

② 全員が業務使用を徹底するかどうか分からない  (私用で使う=職務専念・秩序維持等の義務違反)

③ 持ち歩くと気になるので業務中も見たり触ったりする(目の前の業務に集中しない=業務効率の低下)

 そもそも、スマホという「私物」を持ち込むことは、使用理由がどうであれ「私」が入り込むということですので、患者さんは蔑ろにされている気になり、気分の良いものではありません。
また、医院としても、各人が何をしているか把握できず、院内の統制、秩序が乱れます。
その結果、業務時間内に「私」が入ることで集中力が切れ、業務効率、ホスピタリティが下がります。つまり、診療中に使うのは「非」なのです

以上を踏まえ、先述の主張に回答するならば、①緊急連絡は、これは自分の緊急連絡先を勤務先である「医院」にしておけば良く、逆に、朝から「こういう電話があるかも知れない」と周囲に伝えておけば、実際にそうなった場合、本人も早退等しやすく、周囲もそのつもりでいたので対応力や連携力が上がります。次に、④から⑩については、スマホという「私」ではなく、ipad等の「公」の機器を導入すれば事足ります。②③についてはゼロリスクとは言い切れませんが、Jアラートは患者さん或いは院長のスマホが鳴るでしょうし、盗難もきちんと施錠する、それでも心配なら防犯カメラを設置する等をすれば対応が可能、これで持ち込む理由はなくなります

【制約を設けるには「理由」+「腹落ちする根拠」が必要!】
今号ご紹介した通り、スマホに限らず、何かしらスタッフに制約を設ける場合は「なぜ」という理由と「なぜならば」という根拠が必要で、こちらが「当然」「常識」と考えていることでも、今の時代、丁寧に説明する必要があるということです。現在、対応に苦慮されている先生は是非ご相談下さい。

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