いざ相続となったとき、ご自身の意思を反映した財産分割を行うには様々な事前準備が必要となります。今号では、遺言書を中心に、その方法について解説していきます。
1.遺言書による財産分割
相続が発生した場合、基本的には「法定相続人」が「法定相続割合」により財産を相続することになるのですが、被相続人の方に、
- 財産を特定の相続人(長男等)に多く相続させたい
- 相続権がない者(内縁の妻等)に財産を渡したい
- 特定の財産を特定の者に承継させたい(事業承継など)
のお考えがある場合、遺言書を作成しておくことで、それらを叶えることが可能となります(遺留分等[前々号参照]の制約は受けますが)。
遺言書にはいくつか種類があります。
(1)自筆証書遺言
ご自身が自筆で遺言書を作成される方法です。
メリットは作成が簡単であること、内容を秘密にできること等です。
以前は自身で保管をしなければならなかったため、紛失や改ざんの恐れがあったのですが、改正により、2020年7月以降は法務局による保管制度(文字通り遺言書の原本を法務局が保管、内容を画像データ化し、相続開始後に相続人が画像データを確認できる制度)が開始され、そのリスクもカバーされました。
また、上記制度を利用すれば、保管の際に法務局で法的な様式の確認をしてもらえるので不備が発生する可能性が低く(あくまで様式のみで内容の効力は確認しない)、また、裁判所で偽造された遺言書でないか等を確認する手続きである検認も不要になります。
上記手続きには3,900円の手数料が必要です(閲覧は別途)。
(2)公正証書遺言
公証役場で公証人に作成してもらう方法です。
作成は2人の証人の立会いの下、被相続人に遺言の内容を聞き取りながら行われ、作成された遺言書は公証役場で保管されます。
公証人(法律のプロ)が執筆するため内容に不備が生じる可能性がかなり低く、紛失・改ざんの恐れもありません。実効性の面では最も確実な方法になります。
ただし、証人を2人用意する必要があることや、手続きに時間(1月弱)がかかること、内容を秘密にできないこと、数万円単位の高い手数料が必要になることなどのデメリットもあります。
(3)秘密証書遺言
ご自身で用意された遺言書(自筆でなくとも可)を2人の証人と共に公証役場に持っていき、遺言書の存在を保証してもらう方法で、遺言書の内容を秘密にしたうえで、存在だけ認識させられるのがメリットです。
ただし、自己保管のため紛失・改ざんの恐れがある、証人2人が必要、内容の確認が無い、検認が必要、2万円前後の手数料がかかるなどデメリットが多いため現在はほぼ利用されていません。
コスト的に安価であることや、改正でリスクがある程度解消されたこともあり、近年では自筆証書遺言の作成件数が増えているようですが、確実性をとるのであれば、法律のプロが作成する公正証書遺言の方が、後々無効になる可能性がほぼないのでbetterです。
2.遺留分減殺請求への対策
前々号でも解説しましたが、遺留分は遺言書の効力に勝ります。
分配はできれば公平にすべきですが、どうしても特定の相続人の遺留分を侵害してしまう場合や、不仲などで財産を渡したくない相続人がいる場合、遺留分についての減殺請求(その相続人の遺留分を“現金”で支払うよう請求される)への対応を考えねばなりません。
方法論としては、「1人当たりの取り分を減らす」か、「遺留分の対象となる財産を減らす」か、の2択で、具体的に次のような方法が考えられます。
(1)養子縁組を利用する
遺留分の割合は実子も養子も同じになっています。
そのため、養子縁組をして法定相続人を増やすことで1人当たりの遺留分割合を減らす方法が考えられます。
ただし、養子にも遺留分が発生しますので、人選は慎重にせねばなりません(実子の配偶者や孫などが現実的でしょう)。
また、養子縁組を行った場合、基礎控除額が600万円増加するため節税効果もあります(ただし、実子がいる場合は養子1人が上限)。
(2)生命保険を利用する
生命保険金は民法上の相続財産に含まれません。
ですので、渡したい相手を受取人とした生命保険契約を締結しておくことで、その保険金部分は遺留分の対象とせずに財産を渡すことが可能です。
また、生命保険は相続税法上も法定相続人の数×500万円まで非課税の規定があるため、金銭での相続より節税効果があります。
ただし、遺産に占める保険金の割合が著しく多い場合、保険金部分まで遺留分の対象とされた判例も過去にあるため、やりすぎには注意が必要です。
(3)生前贈与を利用する
前々号で解説したとおり、法定相続人への生前贈与に関しては、10年前まで遡って遺留分の対象とされてしまいます。ですが、法定相続人以外への生前贈与は原則として相続開始前1年以内分のみが遺留分の対象となっています。
よって、孫など法定相続人以外への贈与をすることで遺留分を減らすことができます(ただし、上記
(1)養子縁組を利用した場合は法定相続人になるため、この方法は使えません)。
(4)除外合意を利用する
個人事業者の場合、事業用資産が相続財産の大半を占めることも考えられます。
そういった場合、遺留分減殺請求をされると事業用資産を処分して金銭を捻出する必要性が生じ、事業継続に支障をきたすことが予想されます。このため、除外合意という遺留分に関する民法上の特例が設けられています。
これは、先代(被相続人)から後継者に贈与された事業用資産について、遺留分の対象財産から除外することができる制度です。
ただし、適用には推定相続人全員の合意が必要となるため、現状で既に相続人同士が不仲な場合等は利用が難しいかもしれません。その他にも様々な要件と複雑な手続きが必要となる制度ではありますが、覚えておいて損はないでしょう。