財務・税務戦略

知っておきたい相続②~これからの生前贈与は?~

財務VOL.158

昨今、「暦年贈与」制度について、廃止の動きが出てきています。
話題となることも多く、ご存知の方も多いと思われますが、今号では、予想される改正の内容と、その影響について解説していきます。

1.暦年贈与廃止の可能性 
そもそも暦年贈与による節税とは、贈与額が年間110万円までは非課税、110万円を超えても200万円までならば10%の税率で財産の移転ができることを利用した節税策で、広く一般に普及した手法といえます。
この制度の改正について最初に言及されたのは、一昨年末の令和3年度税制改正大綱で、「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する」、つまり「財産の移転方法が相続でも贈与でも課される税金の額を一緒にする」旨が明記されました。
相続税が「富の再分配」を目的としている以上、暦年贈与による節税は仕組みとして不合理というのが趣旨です。

昨年末の令和4年度の税制改正大綱では詳細の発表は見送られましたが、「本格的な検討を進める」との記載は引き継がれており近い将来における改正はほぼ確実視されています。
上述の通り、現状では改正の詳細などはわかっておりませんが、いくつか想定される案がありますのでご紹介しましょう。

(1)持ち戻し期間の延長
現行法では、相続の開始前3年以内の贈与により取得した財産について、“相続財産へ足し戻して相続税を計算”することになっています。この持ち戻し期間を延長する足し戻す財産を増やす方法が予想されています。

ちなみに、同様の規定は諸外国にも存在し、イギリスが7年、ドイツは10年、フランスは15年、アメリカに至っては一生涯です。
大綱には「諸外国の制度を参考に」との記述がありましたので、この方向での改正が行われる可能性は高いのではと言われております。
この場合、延長期間にもよりますが、持ち戻し期間以前の贈与については現行法同様、暦年贈与の節税効果は残ることになります。

(2)孫への贈与も持ち戻しの対象に
上記の持ち戻しですが、実は、現行制度では孫への生前贈与については対象外(一部例外あり)となっています。つまり、孫への課税は贈与時単発で完結できる訳です。
現在でも、世代を超えての贈与は節税効果が高い(親→子→孫への資産移転に際し、“子→孫”への相続時の課税を飛ばすことができる)ため、有効な節税策の一つとしてよく用いられています。

改正により、この孫への贈与についても持ち戻しの対象とされることが予想されているのですが、そうなれば一度目の相続税課税は避けられなくなりますが、“子→孫”間の相続を回避できるメリットは依然として残るため、引き続き一定の価値はあると言えます。

(3)相続時精算課税制度の強制適用
相続時精算課税制度は、生前行われた贈与の全てを記録しておき、相続時にその全てを足し戻して相続税額を計算する制度です。暦年贈与制度を廃止し、本制度に一本化することで一体化を図ることが予想されています。
この場合、全ての財産が相続税課税となるため、生前贈与による節税効果はほぼ無くなります。
改正が実行されれば事実上の大増税となり、世論の反発が予想されるため、いきなりの制度廃止はやや考え難い気もしますが、高い可能性として考慮すべきです。
早ければ本年末の令和5年度税制改正大綱において詳細発表があるかもしれません。

2.遡及立法の禁止 
上述のことを踏まえると、気になるのは“いつまでに贈与すればよいのか?”という点です。
基本的に税法には「遡及立法の禁止(法律が施行前に遡って適用されることはない)」という考え方があるため、改正前に行われた贈与については現行法が適用される可能性が非常に高いと言えます。
ですが、これは絶対的なルールという訳ではなく、事実、過去に「遡及適用」について最高裁まで争って納税者が負けた判例もあります。
とはいえ、本件に関しては、仮に遡及適用をしてしまうと納税者に多大な不利益が生じますし、何より国民の理解が得られないでしょうから、その線は薄いように思われます。

3.暦年贈与実務の注意点
暦年贈与の有用性が保たれるのは残り僅かな期間です。その間に、正しい手順を踏み、調査で指摘を受けることの無い申告を行えるよう、実務上、気を付けるべき点を改めて確認しておきましょう。

(1)名義預金
名義預金とは、故人が相続人名義で残していた預金のことで、相続税の税務調査では確実に調査の対象になります。

これを相続税の課税対象と判断されないためには、

①印鑑は受贈者のものを使う
②通帳や印鑑の保管は受贈者本人(又は代理人)にさせる
③銀行振込、贈与契約書など贈与の事実の証拠を残す

などを徹底する必要があります。

なお、受贈者が未成年の場合であっても、親権者が同意すれば贈与契約は成立しますので、贈与契約書には親権者が代理人として署名することを忘れないでください。

(2)連年(定期)贈与
これはよく耳にする誤解で、実際には予め連年(定期)贈与の契約書を作成でもしていない限り、たとえ指摘されても立証は不可能なため、連年(定期)贈与を行うこと自体は何も問題はありません。ただし、毎年の「契約書作成」と「銀行振込」は必須です。勿論、振込先の通帳が「名義預金」と見做されないように注意することも欠かせない。

今年もまだ半年残っていますので、是非とも贈与の実行をご検討ください。

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