財務・税務戦略

申請期限直前!「インボイス制度」総まとめ②

財務VOL.163

今号では、前号に引き続き「インボイス制度」の総まとめです。そのなかでも実務上の取扱いに重点を置いて解説していきます。

1.医療機関のインボイス実務
(1)【売り手としての売上取引に関する対応】

まず初めにですが、医院が登録事業者となった場合でも、発行する請求書等の全てを「インボイス」にする必要はありません。
通常、売上に対しては請求書・納品書・領収証などを発行することになりますが、インボイス対応の書式にするのはいずれか1つで構わないこととされています。
医療機関は納品書を発行する習慣はありませんし、売上が振込入金の場合などは領収書を改めて発行することも少ないので、“請求書”をインボイス対応の書式とするのが現実的かと思われます。
また、インボイスの交付義務は先方の“求めに応じて”と規定されており、“交付してほしい”と要求されない限り現行書式の請求書等で問題ありません。

① インボイスの書式
インボイス対応の書式とは従来の請求書等に次の2点を追加したものをいいます。
㋐ 登録番号
㋑ 税率ごとに区分した消費税額

請求書 □□クリニック
㋐ ⇒ 登録番号T-100000000000
〇〇株式会社御中  ×年×月×日発行
診察期間  品目  金額
△月△日 診察料  11,000円
△月△日  サプリ*  2,160円
本体価格
合計   12,000円 ㋑⇒ 消費税  1,160円
10%対応 10,000円  消費税  1,000円
8%対応  2,000円 消費税   160円
* 軽減税率対象

登録番号とは、税務署が発行する識別番号で、「T+13桁の番号」で構成され、法人は法人番号、個人は新規に13桁の番号が割り振られ、この番号が「インボイス」であることの証明となります。
また、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」では、この登録番号で取引先が登録事業者かどうかの検索が可能です。
なお、規定上必要な事項さえ記載してあればインボイスとしては有効なので、既存の請求書等に①登録番号と②消費税額を手書きする、といった対応でも問題ありません。

② 写しの保存義務
自院が発行したインボイスは、その写しを、課税期間の末日の翌
日から2月を経過した日から7年間保存する義務があります。

(2)【買い手としての仕入・経費取引に関する対応】
買い手側として考えたとき、仕入等に関するインボイスが必要となるのは、消費税の原則課税方式(売上の消費税から仕入等の消費税を引いて納付税額を計算する方式)を採用している医院だけです。
免税事業者及び簡易課税制度を採用している医院は支出に係る領収書等をインボイスで貰う必要はありません。

① インボイスの交付を求められない取引先の事前確認
主に小規模な事業者でインボイスの登録事業者を選択しないであろうと想定される取引先がどれくらいあるのかを事前に確認しておき、どの程度影響が出るかを検証しておく必要があるでしょう。
テナント等で個人の家主に家賃を支払っている場合も要注意です(消費税の課税事業者でない場合も想定されます)。
登録申請を行わない免税事業者への支出については、制度開始後3年間は80%、次の3年間は50%まで消費税の控除を認める経過措置がありますので、その間に消費税分の値下げを交渉するなど、個別の対応が必要となります。

② 3万円未満特例の廃止
消費税の仕入税額控除においては、3万円未満の少額な支出
については請求書の保存は不要とする特例があったのですが、インボイス制度の導入に併せて廃止されることが決まっています。
経費等でクレジットカードの取引が多く、3万円未満の領収証等の保存状況が悪い方は、令和5年10月1日以降、クレジットカードのご利用明細書だけでは消費税の控除が出来なくなりますのでご注意ください。

2.MS法人・役員との取引
医院の中には、別法人(以下「MS法人」)との取引で診療所を賃借したり、業務の一部を委託したりしているケースがあるかと思いますが、こうしたMS法人に支払う経費で、消費税の掛る取引についても、当然ながらインボイスの交付を受ける必要がありあます。
この際、MS法人側が元より課税事業者であればよいのですが、現状が免税事業者であった場合、登録によってMS法人に新たに消費税の納税義務が生じてしまうため、その①新たに納付すべきこととなる消費税と、②インボイスの交付を受けられないことにより医院側で増加する消費税を比較し、有利判定を行わなければなりません。
また、診療所の建物を理事長個人から賃借している場合にも、同様の問題が生じます。

3.申請届出について
登録事業者への登録申請を行った場合、インターネットでの届出であれば約2週間程度で登録が行われることとなります。
なお、前号でも触れましたが、制度開始となる令和5年10月1日より登録事業者になるには、令和5年3月31日までの登録申請が原則必要です。
ただし、上記期限までに申請が困難な場合には、登録申請書にその理由を書いて令和5年9月30日までに提出すれば、原則同様、10月1日より適用を受けることが可能です。
この「困難な事情」に制限は無く、また困難の度合いは問わない、となっているため、「登録するかの判断に時間がかかった」などでもおそらく問題ありません(実際、制度開始直前まで熟考して申請しても10月1日より適用を受けられると考えられます)。
ただし、登録完了まで上述の通り時間を要しますので、遅くとも1ヶ月前までには判断された方が良いでしょう。

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