今号では、先月発表された『令和4年度税制改正大綱』より、主要な論点について解説していきます。
1.住宅ローン控除の延長と縮小
所得税の住宅ローン控除について、その適用期限が令和3年12月31日までと迫っていましたが、今回の大綱により令和7年12月31日まで、4年間の再延長となりました。
また、新型コロナ感染症の影響により、経済状況が依然厳しい状況にあることを踏まえ、新築で住宅を取得した場合の控除期間については、通常の10年間に3年上乗せした13年間(中古は10年のまま)へ拡充されます。
さらに、住宅の種類による細分化が行われ、省エネ基準適合住宅、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、認定住宅など、一定の環境・耐震基準を満たす住宅については、対象となるローン残高限度額が一般住宅よりも上乗せされます。
ただし、限度額そのものは徐々に縮小される方向です。
くわえて、長らく続く超低金利状態による『逆ざや(=税額控除がローン利息を上回る状態)』を解消する施策として、令和4年1月1日以降の入居に関しては、控除率が0.7%(現行1%)へ引下げられることで控除額の縮小となります。
区分 | 入居時期別のローン残高限度額(最大控除年額) | 控除期間 | |||
R3年 | R4~R5年 | R6~R7年 | |||
新築 | 一般 | 4,000万円
(40万円)
|
3,000万円
(21万円) |
2,000万円
(14万円) |
13年※ |
省エネ | 4,000万円
(28万円) |
3,000万円
(21万円) |
13年 | ||
ZEH | 4,500万円
(31.5万円) |
3,500万円
(24.5万円) |
13年 | ||
認定 | 5,000万円
(50万円) |
5,000万円
(35万円) |
4,500万円
(31.5万円) |
13年 | |
中古 | 一般 | 2,000万円
(20万円) |
2,000万円 (14万円) |
10年 | |
省エネ等 |
3,000万円 (21万円) |
10年 |
※…一般住宅のR6~R7年入居分については控除期間10年とし、かつ、令和5年末までに建築確認を受けたものに限る
なお、適用対象者についても、所得制限が現行の3,000万円から2,000万円まで引下げられることとなり、高所得者の場合、そもそも適用を受けられなくなることも考えられます。
2.住宅取得資金贈与の非課税の延長
父母や祖父母などの直系尊属から、住宅取得等のための資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度について、適用期限が令和5年12月31日(現行令和3年12月31日)まで2年間延長されました。
ただし、消費税率の10%への引上げによる非課税限度額の増枠(現行法では、①10%の消費税がかかる場合=事業者から購入・新築等した場合と②消費税のかからない場合=個人間売買とで、非課税限度額が二段階になっていました)については予定通り廃止され、一本化されます。
区分 | 非課税限度額 | ||
改正前 | 改正後 | ||
省エネ・耐震又はバリアフリー住宅 | ①事業者 | 1,500万円 | 1,000万円 |
②個人間 | 1,000万円 | ||
上記以外 | ①事業者 | 1,000万円 | 500万円 |
②個人間 | 500万円 |
なお、上記以外にも
・受贈者の年齢要件の20歳から18歳への引下げ
・昭和57年以降建築の中古物件についての築年数要件の廃止
などが行われます。
当該改正は令和4年1月1日以後の贈与より適用開始(年齢要件のみ令和4年4月1日)です。
3.賃上げ税制の延長・拡充
中小企業が賃上げをした場合の税額控除についても、適用期限が1年延長され、控除税額が次の通り拡充されました。
(1)基本部分(変更なし)
当期の従業員給与等が前期の1.5%以上増加・・・控除額=増加した給与等の15%
(2)上乗せ部分(拡充)
①当期の従業員給与等が前期の2.5%以上増加・・・増加した給与等の15%を基本部分に加算
②当期の教育訓練費(社員研修費)が前期の10%以上増加・・・増加した給与等の10%を基本部分に加算
最終的に15%+15%+10%で最大40%の控除可能となります。
現行は(2)①②の両要件を満たす場合に初めて10%加算(15%+10%で最大25%)となっているため、改正により要件緩和と控除額の拡充が同時に行われる形です。
ただし、控除額の上限は法人税額の20%のままです。
当該改正は令和4年4月1日から令和6年3月31日の間に開始する各事業年度(個人事業主の場合は令和5年及び6年度分)について適用されます。
4.財産債務調書
現行法でも、その年の所得が2,000万円を超え、かつ、12月31日時点の財産の価額が3億円以上、又は有価証券などを1億円以上保有している場合、「財産債務調書」という財産及び債務の明細を税務署に提出する義務があるのですが、今回の大綱により適用範囲の拡大が行われ、上記の場合のほか、財産の価額が10億円以上の場合には所得金額に係わらず(たとえ所得が0円でも)、当該調書の提出が必要となります。
また、これに併せて財産債務調書の提出期限が6月30日(現行は確定申告期限と同じ3月15日)まで延長されます。
当該改正は令和5年分以後の財産債務調書より適用されます。