今号では、先日発表された『令和3年度税制改正大綱』につき、その要点を解説いたします。
1.退職所得課税の適正化
退職金は過去の長期間の勤務の対価の後払いの性格があることから、累進課税の影響(一括で支給することで税率が高くなる)を緩和するため、退職金額から退職所得控除額を差し引いた所得金額のうち1/2にのみ課税をしています。しかし、それを逆用し、当初から短期間での勤務予定である者の給料を下げ、退職金を高額にするといった手法の租税回避が横行していました。そこで、既に規制対象となっている役員等、以外の従業員についても勤続5年以下の者については1/2課税を廃止することとしました。
ただし、近年の雇用の流動化に配慮し、退職所得控除後の金額につき、300万円までは従来通りの1/2課税を適用することとされます(役員等は除く)。この改正は令和4年分以後の所得税について適用されます。
2.住宅ローン控除の延長
消費税増税後の需要減の影響を緩和するため、税率10%で取得等した住宅に係るローンについては、本年12月末までを入居期限として通常の10年に3年追加した13年間の控除が適用されていますが、コロナ渦の影響を考慮し、入居期限が2年間延長されました。
具体的には、下記の区分に応じた期限までに契約締結を行い、かつ、令和3年1月~令和4年12月までの間に入居したものについて13年間の控除が適用されます。
① 新築:令和2年10月~令和3年9月
② 分譲(新古)・中古・増改築:令和2年12月~令和3年11月
また、上記に該当する場合、床面積要件等も緩和されます。これまでの床面積50㎡以上という要件に加えて、40㎡以上50㎡未満の小規模住宅についても適用されることとなりました。ただし、要件緩和の対象は所得が1,000万円以下のものに限定されます。
3.土地の固定資産税の据え置き
令和3年度は3年に一度の“固定資産税評価額”の評価替えに伴う固定資産税額の更新年度にあたるのですが、こちらもコロナ渦の影響に配慮し、令和3年度限定で次の負担軽減措置をとります。
① 評価額が上昇した場合 ⇒ 税額据え置き
② 評価額が下落した場合 ⇒ 下がった評価額に基づき課税
ただし、据え置きは1年間限定であり、令和4年度以後は更新後の評価額に基づき課税されます。また、評価額そのものは更新されますので、相続税や不動産取得税、登録免許税など評価額に基づいて課税されるその他の税金については、更新後の評価額に基づき計算される点に注意が必要です。
4.法人税の軽減税率の延長
中小企業者等(※)の、800万円以下の課税所得に適用される法人税の軽減税率15%(本則19%)の適用期限が、令和3年3月以前開始の事業年度まで、から、令和5年3月以前開始の事業年度まで2年間延長されます。
(※)公益法人、期末資本金1億円以下の普通法人等をいいます。
5.所得拡大促進税制の改正
所得拡大促進税制は、当期の給与等の支給額のうち前期比増加額の15%(一定の場合25%)を法人税から控除(法人税の20%を上限)できる制度ですが、以下の通り、改正されます。
(1)継続雇用者要件の廃止
現行の所得拡大促進税制の適用要件は、下記の2要件です。
① 当期の給与等の支給額>前期の給与等の支給額
② 継続雇用者に対する給与等が前期比で1.5%以上増加
ここでいう継続雇用者とは、要するに、比較対象となる当期と前期の各月すべてにおいて給与等の支給を受けた者、つまり「2年間在籍して給与等の支給を受けた人」を指すのですが、これが改正により
① 当期の給与等の支給額が前期比で1.5%以上増加
のみの要件に変更され、上記②の継続雇用要件が無くなります。
既存スタッフの賃上げだけでなく、雇用を増加させる企業を下支えする観点での改正となっています。
(2)適用期間の延長
適用期間が2年間延長され、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する事業年度について適用されます。
(3)その他
雇用調整助成金等の給与の支払に充てるための補助金を収受している場合の適用についてですが、上記(1)①の要件を判定する場合において、雇用調整助成金等の額を控除しなくても良いこととされました。ただし、税額控除率を乗ずる基礎となる金額の計算(前期比増加額の算出)においては、従来通り、雇用調整助成金等を控除して計算する必要がありますのでご注意ください。
6.押印義務の廃止
納税環境のデジタル化推進のため、税務関係書類についての押印義務が原則廃止されます。具体的には、確定申告書や年末調整関連の各種申告書、国税、地方税の各種届出書などについて押印義務が廃止されます。
ただし、相続税申告書に添付する遺産分割協議書など実印や印鑑証明が求められる一部の添付書類については従来通り押印手続きが存続することとなります。
本改正は令和3年4月以降提出の書類について適用されますが、改正の趣旨を踏まえ、施行日前においても、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととされております。
上記の他にも、「教育資金」「結婚・子育て資金」の一括贈与、「住宅取得資金」に係る贈与等、資産税関連の非課税措置についても一部内容の見直しが行われた上で適用期間が延長されていますので、引き続き、次号以降でご紹介いたします。