過去のレポートでも何度か取り上げておりますが、今号においては「扶養の範囲内で働きたい」といういわゆる“配偶者の収入の壁”の問題について、「税制上の扶養」「社会保険上の扶養」「給与規定上の家族(配偶者)手当」の3つの観点で要点を解説していきます。
1.税制上の扶養「150万円の壁」…配偶者(特別)控除
納税者に生計を一にする配偶者がいる場合、一定の控除を受けることができます。配偶者の合計所得金額が48万円以下であれば「配偶者控除」、48万円超133万円以下であれば「配偶者特別控除」が適用可能で、これを給与収入に置き直すとそれぞれ103万円、201万円となります。配偶者特別控除の最高額38万円が適用できる収入が150万円以下となりますので、一般的には「150万円の壁」と言われています。また、控除金額は納税者本人(ご主人)の収入によっても変動します(詳細下記)。
<給与収入と配偶者(特別)控除の早見表 単位:万円>
配偶者控除 | 配偶者の給与収入 | 納税者本人の給与収入 | ||
1,095以下(1,110)※ | 1,145以下(1,160)※ | 1,195以下(1,210)※ | ||
103以下 | 38 | 26 | 13 | |
配偶者特別控除 | 150以下 | 38 | 26 | 13 |
155以下 | 36 | 24 | 12 | |
160以下 | 31 | 21 | 11 | |
166以下 | 26 | 18 | 9 | |
175以下 | 21 | 14 | 7 | |
183以下 | 16 | 11 | 6 | |
190以下 | 11 | 8 | 4 | |
197以下 | 6 | 4 | 2 | |
201以下 | 3 | 2 | 1 | |
201超 | - | - | - |
※( )書きは23歳未満の扶養親族や特別障害者がいる場合の金額
ここで生じる一番大きな誤解は、「150万円を1円でも超えてしまったら、大きく損をする!」との声を未だに耳にすることです。
上記表を改めて確認して頂くと、配偶者特別控除額については、収入の増加に応じてなだらかに控除額が減少していきます。しかも、この金額はあくまでご主人の所得から差し引かれる所得控除の額に過ぎず、実際に影響を受ける額は所得控除額にご主人の税率を掛けたものとなりますので、控除額が1~2段階下がったところで、ご主人に課される税額の増加は大した金額ではありません。
この「150万円の壁」が、そもそも就労抑制の打開策として平成30年度より導入されたにも関わらず(従来は103万円)、政府の意図に反して、未だに現場サイドでパートさんの就労抑制が中々減らないのは何故でしょうか?その要因を下記で確認していきましょう。
2.社会保険上の扶養「130万円の壁」
2つ目の“配偶者の扶養”といえば社会保険上の扶養でしょう。
年収が130万円を超えた場合、ご主人の扶養から外れ、ご自身で勤務先の社会保険に加入しなければなりません。いわゆる「130万円の壁」です。
※税制上の扶養と異なる点は、収入に「通勤手当」を含めた金額で判断すること、年収は結果ではなく、“見込み”で判断(つまり月額108,333円を超える場合は、その時点で判断)する点です。
※勤務先が社会保険の適用事業者でない場合、又はご自身の労働時間が短い等、加入要件を満たさない場合には国民健康保険及び国民年金への加入となります。
税制上の壁が150万円へ引き上げられても、この「社会保険上の130万円の壁」が変更されることなく依然存在するため、130万円手前での就労抑制が減ることはありません。仮に、年収が131万円だとして勤務先の社会保険に加入した場合、年間で負担する保険料は19万円前後にもなり、これでは就労抑制が起きるのもやむを得ません。
※「106万円の壁」について
現時点で、この影響を受ける方は少ないかと思われますが、念のため触れておきます。
社会保険の制度改正により、平成28年10月以降、国や地方公共団体に属する事業所や社会保険の被保険者数(従業員数ではない)が500人を超えるような大企業の場合、パートタイマー等でも週20時間以上働いており、月給88,000円(年収約106円)以上の方については社会保険の加入が義務付けられます(学生除く)。
この規定については、更に令和2年5月に成立した年金制度改正法において加入対象が拡大されることとなりました。現行では上記の通り500人超という大企業のみが対象なのですが、令和4年10月には100人超、令和6年10月には50人超にまで対象が拡大されますので、既に被保険者数が上記に該当する事業所については今後注意が必要です。
3.給与規定上の家族(配偶者)手当
最後に、現場の実情として就労抑制へと駆り立てる最も大きな要因となっている、ご主人の勤務先より支給される「家族(配偶者)手当」について触れておきます。
「家族手当」については、支給要件として「配偶者の収入制限」を設けている会社が非常に多く、その基準金額として、もともとの税制上の扶養要件「103万円」と社会保険上の扶養要件「130万円」を据えている会社が未だに多く存在する実態があります。月5,000円~20,000円相当の手当が無くなるのは家計にとって影響が大きく、大きな就労抑制要因となっています。
4.扶養の範囲内で就労を調整したいと言われたら・・・
まずは、当該スタッフが上記1.2.3.のいずれの観点で希望されているのかを確認して下さい。
仮に3.であれば、家計への影響に配慮し調整せざるを得ませんが、ご主人の勤務先からの家族手当の支給に影響がない場合には再考の余地があります。1.で触れたように税制上の扶養については影響が僅かであることを説明し、社会保険上の扶養の壁「130万円」ギリギリまで働いて頂くよう交渉の余地はあります。
「家族手当」等の支給要件に従前の金額基準が未だに散見されるとはいえ、トヨタなどの大企業や官公庁等を中心に既に改正の動きがあるのも事実です。3.の制約がある方についても、支給基準に変更はないか?定期的にご主人の勤務先への確認をご案内ください。