労務・人材活性化

子育て中のスタッフはどう扱えば良いのか?

経営VOL.185

先日、クライアントのK先生から、「産休に入るまで積極的にリーダーを引き受けたり、色々な改善提案をしてくれたりと、バリバリ働いてくれていたスタッフが育休から戻ってきたのですが、産休前と生活環境が違うこともあり、思い通りの仕事が出来ずストレスを抱えているようなのです。本人は仕事をしたくても、保育園から連絡があれば早退しなければいけないですし、子供が病気になれば保育園は預かってくれないので休まなければいけないし…。」という相談がありました。 ここまでであれば、やる気のあるスタッフによくある話なのですが、その後、「当然、こちらとしても事情を分かっているので、以前のように第2領域の仕事やプラスアルファの仕事はお願いしないようにしているのですが、本人曰く、自分も、もっと以前のような業務に関わりたいのに、それをさせてくれないのは、子育てしているスタッフに対する“差別”であり“マタハラ”ではないかと訴えてきたのです…。こちらも大変だろうと気を遣っていたのに、こんなことを言われるとは思ってませんでした。どうすれば良いでしょうか?」と憔悴してのご相談でした。

【そもそも、これは「差別」であり「マタハラ」なのでしょうか?】
まず、このスタッフが訴えるように、K先生の心遣いは「マタハラ」なのでしょうか。そもそも、「ハラスメント」とは「嫌がらせ」であり、確かに、一部、子育て中のスタッフに、あえて簡単な仕事しかさせず、キャリア形成の妨害をする、同僚との関係を切り離す等を公然と行う企業が社会問題となっています。
これは、子育て中の労働者は『子供を理由に抜けたり、休んだりするもの=重要な仕事は任せられない』という固定観念から、そのリスクを回避するため「文句を言うなら辞めても構わない」と、結果的に「ハラスメント」になっているケースもあるのですが、いずれにしても「嫌がらせ」が前提です。
今回、K先生にその意図(嫌がらせの意図)は全くなく、あくまで、そのスタッフの事情を慮ってのことですので、マタハラには該当しないと考えて差し支えないと思われます。
それでは、「差別」に当たるのかと申しますと、あからさまに待遇で差を付ける等がなければ、重要な仕事を任せないことだけでは、基本、「差別」には当たらないと考えられます。しかし、余りにも「子供が小さいから」「大変だろうから」と相手の事情を慮り過ぎると、『慈悲的性差別(ベネヴォレント・セクシズム)』、いわゆる、善意や親切心のように見える方法で表現された性差別と捉えられてしまうことがあります。

【慈悲的性差別(ベネヴォレント・セクシズム)とは?】
これは、一見、「悪意」ではなく「親切心」に見えることから、社会に許容されやすいのですが、結局、「女性は家事や子育てが大変だろうから」という慮りの裏に「家事や育児は女性がするもの」という性差別が潜んでいるということなのです。この考え方は、元々、騎士道精神や父権主義という価値観から「女性は弱いので男性が守るべき存在」、つまり、「女性は男性よりも劣る存在」という考え方が前提にあり、「男女平等」が謳われて久しい現代社会でも、この発想は脈々と残り、全くそのつもりがなくても、そのように捉えられるリスクがあるということですので、今後も注意が必要なのです。

【2025年4月:育児・介護休業法が改正されます!】
今回のK先生のケースもそうなのですが、結局、先生が良かれと思って慮った結果=思っただけで本人の意思を確認していない、つまり、復帰後の働き方についての対話が不足している、いわゆる「コミュニケーション不全」が原因でした。このような事態は国も把握しており、来年4月に育児・介護休業法が改正される予定で、詳細は確定後にご案内しますが、今回、「出産育児を行う従業員に対して、個別の意向の聴取と配慮」の義務化が盛り込まれています。そして、その従業員が働きやすいように、柔軟な働き方(始業時刻等の変更/テレワーク/短時間勤務/新たな休暇の付与/その他、働きながら子を養育しやすくするための措置の中から2つ選択)の実現も義務化されます。
要は、しっかり話し合ってお互いの意向を確認し、それに対して可能な限り対応して下さい=出産育児を行う従業員が働きやすい職場を作って下さい、ということなのです。「柔軟な働き方の実現」は事業所によって様々でしょうが、国も義務としている「個別の意向の聴取」は、励行するとK先生のようなトラブルにはならないと思われますので、今号を機に、是非、先生方に実施して頂きたいと存じます。

【但し、出産育児を行うスタッフの姿勢・態度も重要です】
国も法整備を行い、事業所も努力し、年々、出産育児を行うスタッフにとって働きやすい環境が整いつつありますが、残念ながら、これに感謝することなく急な欠勤や遅刻・早退も「子供がいるから仕方がない」と周囲に何の気遣いもなく権利行使されるスタッフも少なからずおられます。
このようなスタッフが、善良な他の出産育児スタッフに対する偏見や差別を助長しているのは事実ですので、話し合いの際には、周囲への感謝を忘れないことを申し添えて頂きたいところです。

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