財務・税務戦略

“助成金”等に含まれる消費税等相当額の返還

財務VOL.146

昨今、様々な助成金等が国・地方自治体より支給されていますが、事業者が消費税を納付している事業者である場合、補助金の一部を返還しなければならない場合があることをご存知でしょうか?
今号では、その「助成金等に含まれる消費税等相当額の返還」について解説していきます。

1.“助成金”等に含まれる消費税等相当額の返還
助成金等の一部につき返還が必要となる理由は、助成金等と消費税の税額控除の重複による二重取りを防ぐためです。
まず初めに、消費税の納付の仕組みについて説明いたします。
基本的に、事業者は「売上で預かった消費税」から「仕入・経費等で負担した消費税」を控除した残額国に納付するため、消費税額の負担で損得が発生することはないというのが原則的な仕組みです。

では具体的に、「補助金110万円」をもらって、マスクや空気清浄機等の感染症対策の備品を合計で税込み110万円(内消費税額10万円)購入したケースで説明してみましょう。
今号のような事案が発生する大きな要因は、“国・地方自治体から貰える助成金・補助金が収入であるにも拘わらず消費税がかからない”という点です。
補助金という収入には、上記の「売上で預かった消費税」が発生しないにもかかわらず、購入した諸経費には「仕入・経費等で負担した消費税」が発生しています。

「仕入・経費等で負担した消費税」は、他の売上で預かった消費税から控除する形になり、最終的に消費税の納付税額から引いてもらえる訳ですから、この消費税分10万円は事業者の方で負担したことにはならず、実態としては、“110万円の補助金をもらって、100万円の支出に充てた”という結果になる訳です。
国などからすれば、「110万円を払ったと聞いたから満額補填したのに実質100万円の負担で済んだのなら差額10万円は返しなさい」という道理的な話です。

補助金・助成金をもらった場合、後日、消費税返還分の負担が発生するケースがあることを、頭に入れておいて下さい。

2.医療機関のケース
さて、医療機関については、1.で説明した消費税返還額の計算方法が他の業種と異なります
これは制度上、“医療機関の保険診療収入には消費税がかからない”ためです。つまり、収入に消費税がかからず「売上で預かった消費税」が発生しない訳ですから、「仕入・経費等で支払った消費税」全額の控除を認めると税収が減ってしまうため、控除の過程で“制限”が課されます。

具体的には、「仕入・経費等で支払った消費税」の控除計算において、「(消費税が課される売上÷全体の総売上)の割合:課税売上割合」分しか控除を認めないということになります。例えば、年間売上として、自由診療収入1,000万円(消費税課税)・保険診療収入4,000万円(消費税非課税)の場合、仕入・経費等で負担した消費税の内、課税売上割合20%(1,000万円÷5,000万円×100%)しか控除してもらえない結果となります。残り80%の控除されない分は、実質的に医療機関の負担となり、これが消費税における“医療機関の損税問題”と言われているものです。

医療機関の場合、消費税の返還計算においてもこの仕組みが影響するため、返還額が他の業種より少なくなります。上記の事例で言いますと、他の業種で10万円の返還となるところが10万円×20%=2万円のみ返還すれば良いということになります。

3.返還が不要な場合
助成金等をもらった場合、全てのケースで返還が必要になる訳ではありません。主に以下のような場合には、返還は不要となります。

(1)免税事業者である(そもそも消費税を納付していない)

(2)簡易課税制度の適用を受けている(「預かった消費税から予め決められた一定割合(業種による)を差引く」という特例的な計算方法の適用により、仕入や経費に実際に課された消費税額が納付額に影響しない)

(3)経費の内容人件費など消費税の「非課税」取引のため「支払った消費税」が発生しない

また、そもそも補助金申請の段階で税抜価額に基づき申請を行っている場合も返還不要となります。

4.返還対象となる助成金等
では具体的にどのような助成金等について返還が必要となるのか、コロナ関連の助成金等から代表的なものを確認していきましょう。

(1)返還が必要なもの
新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金
感染拡大防止等支援事業等、補助の対象が感染症対策の物品の購入など消費税のかかる支出を含むため返還対象となります。なお、補助金について返還が必要かどうかは消費税法の規定ではなく、公募要領や募集要項の中で定められることとなっています。

(2)返還が不要なもの
持続化給付金、家賃支援給付金、雇用調整助成金等
これらの給付金等は、そもそも売上の減少を補填するための給付金で、経費の補填を目的としたものではないため、もともと募集要項等に明記されていません。また、雇用調整助成金は対応する経費が給与(非課税経費)のため返還は不要です。

5.返還の手続き
消費税等の返還計算は通常、補助金の対象となる事業の完了後、決算作業の一環として年間の消費税等の申告額が確定後に初めて計算が可能となります。返還手続きの期限については各自治体等によってまちまち(「すみやかに」「遅滞なく」などの曖昧な表現も多い)で、自治体からの通知や連絡等も不確実なため、個別に確認した方が良いでしょう。

返還額の報告後に各地方自治体等から納付書(請求書)が送られてきますので、それをもって納付(返還)を行うことになります。
また、返還額が発生しなくても自治体への報告は必要な場合が多いので、この点も注意が必要です。

報告を怠った場合のペナルティについては明記していない自治体も多いですが「返還の報告まで含めて補助金の交付条件」であると考えられます。最悪の場合、補助金の返還などを求められないとも限りませんので、くれぐれも報告と返還漏れのないようにご注意ください。

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