労務・人材活性化

今月から希望者は全員65歳まで雇用が義務?

経営VOL.192

皆様ご存知の通り、今月(2025年4月)より高年齢者雇用安定法の改正により、全ての事業所は65歳までの雇用確保が義務付けられました。
これを聞いて「これまで定年を60歳にしていたが、65歳にしなければいけないのか」と仰る先生もおられたのですが、あくまで『雇用の確保』であり、  

□    65歳までの定年引き上げ

□    定年制の廃止

□    65歳までの継続雇用制度導入 

のいずれかで良く、定年を65歳に延ばすのも措置のひとつですが、とにかく、65歳まで働ける制度であれば良いのです。また、「義務」である以上、希望者は全員対象となります。

 今回の法改正の施行は、クリニックにとっては仕事に慣れた職員を継続雇用し、代替人員の募集をしなくても良いメリットがある反面、そのままの条件で雇い続ければ人件費が高騰し、また若いスタッフが育たず組織に代謝が生まれないというデメリットもあり、かつ、希望されても残って欲しくない職員さんもいる場合は、更に対応が必要となってしまいます。それでは、今後クリニックとしてはどのような対応をすれば良いのか、今回の改正内容を踏まえ解説させて頂きます。 

【希望者は全員雇用しなければいけないのか?】
どのような職員でも、希望さえすれば無条件に65歳まで雇用しなければいけないとなれば、クリニックの人件費負担は甚大となり、また、組織も徐々に高齢化するため、今まで以上に安全配慮義務を果たさなければいけなくなります。さすがに、それではクリニック経営に支障が出ますので、「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」により、『継続雇用をしない場合、客観的に合理的な理由があり、それが社会通念上相当であることが求められる』とあり、要は、職員さんが継続雇用を希望しても、それ相応の理由があればその限りではないということです。 

では、相応の理由とは何かと申しますと、就業規則に掲載されている「解雇事由」または「退職事由」に該当する場合、または「勤務状況の不良」「業務困難な体況」は客観的に合理的と認められることが多いのですが、それが、社会通念上相当であるかどうか、要は、厳しく定め過ぎて高年齢者雇用安定法違反にならないか注意が必要ですので、この機会に、就業規則を確認しておくことをお勧めいたします。

【「高年齢者雇用安定法」の求めるところは…?】
先述の通り、希望者全員ではなく、就業規則等に基づき一定の制限が可能ということはご理解頂けたと思いますが、それでは、継続雇用における「雇用条件」はどうすれば良いのでしょうか。「継続雇用=これまでと同じ条件で雇用」にしなければいけないのでしょうか。

高年齢者雇用安定法が義務付けているのは高年齢者の安定した雇用の確保であり、高年齢者の希望に合致した労働条件での雇用まで義務付けている訳ではありません
従って、クリニック側が自院の状況を踏まえ、また、継続雇用者の業務内容等を鑑み合理的な条件を提示した結果、
合意が得られず継続雇用に至らなかった場合は高年齢者雇用安定法違反にはなりません
但し、あくまでも法の趣旨が「安定的な雇用の確保」である以上、法律上、減額幅に関する定めはないものの、余りにも著しい給与の減額や勤務日数、または勤務時間の削減は合理性に欠くと判断されかねません。また、雇用形態についても同様で、高年齢者の安定した雇用の確保という法律の趣旨を踏まえた上で根拠を明確にすれば、パートタイムや嘱託等の就業形態や無期雇用から1年更新の有期契約という提示は可能です。但し、上述の通り、雇用契約である以上
「同意」が必要となりますので、条件提示する際は、しっかりとした根拠を明示し、労使双方でしっかり話し合うことが必要です。

尚、定年後、1年更新でも通算5年を超えた場合、職員からの申込みにより期間の定めのない労働契約に転換できる「無期転換ルール」が適用されますが、有期雇用特別措置法により、一定条件の元で都道府県の労働局長の認定を受けることで無期転換申込権が発生しない特例が設けられています(詳細をお知りになりたい方はご相談下さい)

【今回の法改正をクリニック経営の追い風に変えましょう!】
 今回の改正は、定年以後も残って欲しいベテランの職員さんにその状況に見合った条件で残ってもらえるだけでなく、残って欲しくない職員さんも就業規則等に照らし、勤務不良等であれば指導をする良い機会となります(態度を改めるなら継続、改まらなければお辞め頂いて良いということです)。
また、この
改正の対象は継続の希望者ですので、希望者がいない、そもそも定年まで職員さんが続かないクリニックには無関係の話ですが、やはり、このようなご時世だからこそ、皆が長く働きたいクリニックを目指したいところですし、この法改正を機に人事戦略を見直してみてはいかがでしょうか

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