前号では、2019年4月以降、「働き方改革」により有給休暇の取得を巡る労使間のトラブルが多いことから、せめて労使で価値観を共有してもらう一助になればと、「そもそも有給休暇とは何か」を解説させて頂きましたが、その後、スタッフの皆さんが全て納得した訳ではないものの、100%取得しなければ「損」という考え方は違う制度であることは理解し、「意地でも100%消化しなければ!」という意識が少し緩和したかもというお喜びの声を少なからず頂きました。
しかし、やはり納得しないスタッフさんがいるという、ある院長先生から、「当院はパートばかりで1人に休まれると回らないため、なかなか有給休暇が取れません。そして先日、有給休暇の話をした際に、『100%取得しなければ“損”』と考えるスタッフから“このままでは、私たちは有給休暇の消化ができませんので、毎年、消化できなかった分は買い取ってもらうか、私は月・水・金はシフト上休めませんので、火・木・土を有給扱いにしてもらうかできませんか”とお願いされました。どうすれば良いでしょうか」というご相談がありました。
前回のレポートでもご紹介した通り、そもそも有給休暇は従業員の不測の事態における救済措置であり、勤務日数や時間が限られているパートさんは、お休みをして給与が下がると生活への影響も特に大きいことから1987年に「比例付与制度(週所定労働日数に応じて有給休暇が与えられる制度)が導入されて現在に至っています。つまり、パートさんの有給休暇制度は、より生活救済色が強いのです。
しかし、だからと言って、毎年、ほぼ丸々の権利を消滅させ続けることに納得ができないというスタッフさんもいるでしょうし、実際、今回の申し出も現場ではよくある話かと存じます。そこで、今号では、このスタッフさんの申し出に対する対応にお答えする形で、皆様と、このようなイレギュラーな要求に対して、どのような根拠でどのように対応すれば良いか、一緒に確認させて頂ければと存じます。是非、ご覧下さい。
【有給休暇の「買い取り」、「取得拒否」について】
まず、法的なところですが、有給休暇を強制的に買い取ったり、有給休暇の取得希望を拒否した場合、「6ヶ月以下の懲役又は30万円の罰金」という罰則が設けられています。
これは、買い取る行為自体が違法という訳ではなく、従業員からの有給休暇の取得希望を拒否するのと同様、「有給休暇を与えない(休む機会を奪う)」ことによる罰則です。
つまり、買い取りを自由に認めてしまうと、従業員に不測の事態が起こり、本当に有給休暇が必要な場合でも休ませずに働かせることができてしまうために禁止されているのです。
【どのような場合も買い取ることはできないのか?】
買い取りも、取得希望の拒否も「休む権利を奪うこと」になるために違法であることはお伝えした通りですが、それでは、全てのケースで買い取りが違法になるのかというとそうではありません。つまり、休む権利を奪うことが違法であり、権利でなくなっている分(退職時に残った日数/時効を迎えて消滅する日数=要は、「有給休暇」として使えなくなった分)については違法ではないのです。また、買い取るかどうかは事業主の任意であり、申し出があったからといって必ず受ける必要もなく、受けた場合も計算方法に決まりはありません。
【普段、労働日でない日に有給休暇は取得できるか?】
次に、法的なところとして押さえておきたいのは「休日=労働の義務がない日」、「休暇=労働の義務が免除された日」であること、つまり、元々「休日」の日に「休暇」は発生しないため、このスタッフさんのお願いは認められません。もし、事業主が認め、今後、月・水・金以外に(本来の休日に)有給を取得するようになると、実質、週4日勤務となり、そのまま次の付与日を迎えた場合、週4日勤務の有給休暇が付与されてしまいます(付与日数は付与日の雇用形態で決定)。また、前回ご紹介した「計画的付与」とし、夏季休暇や年末年始休暇に入れ込んだ場合でも、このパートさんが元々「休日」である日に有給休暇は発生しません。
【結論:事業形態で解決不可のため「買い取り」を選択】
以上のお話をさせて頂き、先生に考えて頂いた結果、出勤時の勤務時間は安定していることから、毎年、時効を迎えて消滅する分を「通常賃金(時給×1日の所定労働時間)×日数」で買い取ることで納得をしてもらいました。
尚、これは違法となる「買取予約(買取を予約することにより有給休暇を与えない、または減じること)」ではない=結果的に残ったら買い取ることを念押しし、今後は皆が交代で休めるよう、シフトの見直しと同時に業務の見直しを行い、また、お休みをする際のルール決めも行い、何とか消化する目途が立ち医院全体が明るくなりました。
休暇問題は難しく、同じ状況でお困りの先生方も多いと存じますが、解決は早い方が良いので是非ご相談下さい。