労務・人材活性化

ダイバーシティ時代の「良識」に対する心構えとは

経営VOL.183

「求人を出しても、なかなか採用ができない」「ようやく採用ができてもすぐに辞める」「続いたとしても言われたことしかしない(戦力にならない)」「すぐに休む(戦力として計算できない)」等々、本当に日々人材に関するご相談が途切れません。
また最近では、「日々、残業するほど忙しいはずなのに有給を取る」「入職後、半年経った時点で退職を申し出て有給を丸々取る」「非常勤から常勤になった最初の有給付与日に退職を申し出る」等、制度を悪用したとしか思えない有給の取得・退職をするスタッフも後を絶ちません。

帝国データバンクによると、昨年の「人手不足倒産」過去最多の313件、うち4件に3件は10人未満の事業所で、逆に捉えると、スタッフからすれば、この人手不足の世の中、今の職場を辞めても職にあぶれることはなく、賃金も上昇していることから雇用の流動化が加速し、このような良識のない辞め方をするスタッフが増えているものと考えられます。

これまで、当レポートに於いて、採用や育成、組織作りの要諦など、あらゆるシーンにおける様々な助言や提言・提案をして参りました。採用であれば、採用条件だけでなく、応募しやすい医院の見せ方や、リファラル採用がしやすくなるような院内の雰囲気作り、育成についても、Z世代の扱い方や教育をする際の目線のお話、心の報酬、組織作りについても、リテンション・マネジメントホラクラシー組織のつくり方等…。
それでも、人が足らない場合は、業務の「棚卸」や「効率化」についての具体例をお示ししたり、成果の出るミーティングの手法をご紹介したりと、1つ1つの事象に真摯に向き合って参りましたが…、これらはスタッフが「就労に対する良識を持ち合わせている」ことが前提でした。
2019年、過労死が社会問題となり、その原因とされる「ブラック企業」をなくすため、国が主導して「働き方改革」が行われたのは記憶に新しいかと存じますが、長時間労働をなくし、あらゆるハラスメントをなくし、職場環境を整えた結果、今度は「ゆるブラック企業」と呼ばれる、居心地は良いが緩過ぎて成長が見込めないという理由で将来に不安を覚えた若者が去っていく企業が増えているそうです。
これが、新卒の早期退職率の上昇に拍車を掛けているとも言われていますが、要は、働く時間、賃金、福利厚生、業務量等、働く側を慮って色々と手を打ったとしても、昨今の労働市場の環境を鑑みても限界があり、かつ、良識に反しているという「自覚」のないスタッフには全く通用しないということです。

【そもそも「良識」とは何か?10人いれば10通りの「良識」】
すぐに辞めたり、まともに働いてもいないのに有給や残業代等の権利だけ主張したり、雇う側からすると信じられないような言動をするスタッフに果たして「悪気」はあるのか、つまり、これらの言動を悪いと思っているのかということですが、これまでの面談キャリアから、圧倒的に「悪いと思っていない」人が多く、逆に「何が悪いの?」と思っている人が多いのです。つまり、「辞めたい理由ができたから辞める」「権利だから主張する」「院内ルールではなく法律さえ守っていれば良い」という認識であり、これが悪気のない「良識」なのです。
要は、雇う側が考える「普通は…」「常識的には…」が、普通でも常識でもないということです。

【ダイバーシティ(多様性)の時代、常識を疑い受け止める】
世代に関係なく、人の心の中には一定の社会に対する「共通と思われるイメージ(いわゆる「当たり前」「常識」)」があり、これと現実との間にネガティブなズレ、つまり、自分の常識と違う言動を目にした場合、「おかしい」「許せない」となる、この「〇〇すべきなのに、そうしない相手は良識がない」と憤る状態が「無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)」で、相手からすれば、単に「偏った見られ方」でしかないのです。
ご存知の通り、現代は「ダイバーシティ(多様性)」の時代と言われており、要は、個々の価値観が大切にされる教育を受けた世代がどんどん労働市場に出てきている=多様な価値観が「是」とされて世に放たれているということです。これまでなら、まだ、「訓示」「価値観教育」等の社内教育で何とか一体化できたものの、今や、それすら「押し付け」とされ、それが原因で退職する人も多いため、これまでの常識を疑い、多様な価値観を受け止める(認めるのではなく、まず否定せずに受け止める)必要に迫られているのです。

【結論=「相互理解」+「許容」+「割り切り」です!】 
日々、我々の常識からすると凡そ信じられないようなことが起こっていますが、それを嘆くのではなく、まずは、「なぜ、そうするのか(思うのか)」と新しい考えに触れる興味を持つ姿勢で理解に努め、相容れない部分は許容し、「これだけやってくれたら」と過度な期待をせずに最低限で割り切る、そして、自分自身の常識に「無意識の偏見(べき)」がないか常に確認するということから始めてみてはいかがでしょうか。
これができるようになれば、何が起こっても憤ることなく冷静に対処できるだけでなく、それが不思議と組織の風土を変える効用もありますので、是非、取り組んでみて下さい。

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