労務・人材活性化

スタッフ全員が納得する「賞与」の払い方とは?

経営VOL.148

今月、再び東京都に「緊急事態宣言」が発出され、沖縄県では延長されました。また、埼玉・千葉・神奈川・大阪は「まん延防止等重点措置」が発出されるなど、コロナ禍の完全な終息が見えない状況ですが…、AMCPレポートをご覧の皆さまのクリニックはどのような状況でしょうか。

会員クリニックさんでは、完全にコロナ禍前の業績に戻った、或いは増えたところもあれば、徐々に業績は戻ってきたものの、未だにコロナ禍前の7割~9割というところもありますが、全体的に深刻な状況は脱したのではないかと思われます。

そのような中、夏季賞与の季節となり、今回も多くのご相談を頂いておりますが…、中でも『業績が回復していても、もう一息であっても、現在、クリニックが存続しているのは感染に気を付けながら我慢して勤務し続けてくれたスタッフのおかげであり(医療機関で働く人に厳しい目が向けられる時期もありました)、全員に喜んでもらえる支給をしたいが、そこまで多くは払えないので、どうすればスタッフさんの「納得感」が得られるのか?』というご相談内容が少なからずございました。

では、賞与原資の「多い」・「少ない」等、各クリニックさんの事情はあるにしても、スタッフさんに「納得感」を得てもらうためにはどのようにすれば良いか、最近、導入するクリニックさんが多い賞与制度をご紹介しながら解説させて頂きます。

【まずは、そもそも「賞与」とは何でしょうか…?】
賞与とは、江戸時代に「お盆」や「暮れ」に使用人や徒弟が帰省する際、「氷代・餅代」・「小遣い銭」として与えたのが最初と言われ、その後、色々な変遷を経て明治時代には社員に毎年支払われるものとして定着した「慣習」です。

よって、スタッフさんの「賞与」に対する認識としては、慣習であるがゆえに、当然“もらえるもの”であり、雇用契約書等に「業績によっては支給しないこともあり得る」と書かれていたとしても“ゼロ”にはならないだろうと思っている方がほとんどではないでしょうか。しかし、ご存知の方も多いと思いますが、賞与は法律上の「支払義務」はありませんが、「就業規則」や「雇用契約書」等に支給すると明記されている場合は、支払義務を負います。また、上述の通り「業績によっては支給しないこともあり得る」と明記している場合、明確な基準は必要となりますが、本当に“ゼロ”でも差し支えないのです。

しかし、賞与は「慣習」であるとともにスタッフさんにとっては「生活給」の一部という性格もあるため、業績が悪化したとしても余程のことがない限り、現実的にはなかなか“ゼロ”には出来るものではありませんし、それをしてしまうと、スタッフさんは安心して働くことが出来なくなるため、離職する可能性が高くなり、そうなるとクリニック経営に支障が出てしまいます。

【金額の多寡ではなく、そうなった理由を知りたいだけ!】
結局、業績はどうあれ、実質、支払わなければいけないのであれば喜んでもらいたいですし、少なくとも「納得」はして欲しいところですが…、そもそも、「愚痴」や「文句」が出るのは、「感謝」をしないスタッフの人間性にも依るところは大きいですが、「あれだけ忙しかったのに、なぜ、これだけなのか?」、「あれだけ頑張ったのに、なぜ、前より少ないのか?」等、自分の知り得ない「疑問」に依るところが非常に大きいのです。

よって、制度設計の基本ですが、この「なぜ」を解消することこそが、かなりの愚痴や文句を抑え、金額が多くても少なくても、「そうだったのか!」という納得に繋がるのです。

そこで、この「なぜ」を解消する制度として、オープンブック(業績開示)を行い、どのようにして賞与原資が決まるのか理解させる「業績連動型」を導入するクリニックさんが増えています。一体どのような制度なのか、ご紹介させて頂きます。

【業績を開示し、経営指標の重要性に気付いてもらう!】
「業績連動型の賞与制度」とは、クリニックの損益・資金の状況から適正な人件費率を定めて「枠」を設定し、評価期間の売上から人件費を差し引き、その残り金額が、設定した「枠」の範囲で多く残れば残るほど賞与原資が増える…、というもので、スタッフさんは以下を理解するようになります。

  • 売上が増えないと賞与が増えない。つまり、1人でも多く患者さんを診なければ賞与は増えない。また、単価を上げないと忙しいだけで賞与は増えない。
  • 人件費が増えると個々の配分が減る。つまり、無駄な残業代を稼いだり、少し忙しいからといって、新たな人員を採用すれば、その分、自分の配分が減ってしまう。
  • 賞与原資よりスタッフへの最低保証総額が上回る場合、その差額はクリニックの「持ち出し」であることが分かる(=本来なら、賞与が出ないのに払ってくれている)。

その結果、多くの患者さんを現スタッフで回すため、採用を言ってくるどころか、自分たちで「業務効率化」・「業務改善」に取り組むようになり、残業代が発生しないように勤務時間内でしっかり働くようになるだけでなく、患者さんの単価を気にする等の経営的視点も持つようになり、クリニックの経営事情を知ったことから、院長に感謝するようになります。当然、運営手法にも依るところはありますが、概ね、この制度を導入したクリニックさんでは、このような成果が出ています

今号はいかがでしたでしょうか。もし、賞与支給にお悩みであれば、是非、この制度を参考にして頂ければ幸いです。

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