労務・人材活性化

これをやる前にスタッフを補充してはいけません

経営VOL.140

クライアントのS歯科の院長先生から、『2ヶ月後にスタッフが1人退職することになり、既存スタッフは当然のように補充を求めてくるのですが…、コロナ禍の影響で患者数は少なく、しばらく今のような状況が続くと思いますし、今の人員で十分回る気がするのですが、回復を見越してスタッフの言う通り補充した方が良いのでしょうか…?』というご相談がありました。

確かに、現在は患者が減っているため業務に余裕があり、スタッフが1人減っても十分回るようですし、患者数の減少に伴い、当然、売上が下がっており、人件費を含めて同じ支出を続けると赤字に転落する可能性もありますので、回復の兆しが見えない間、院長先生は補充を避けたい意向です。

しかし、従来、今の人数で1人でも休めば、受付、電話対応、会計、助手(準備・片付け)等で繁忙を極め、患者サービスが低下するだけでなく、残業も増えていたことから、補充しないまま患者数が回復すれば、このようになるのは目に見えています。

そう考えると、余裕がある今から「補充はしておかなければならない」ということになるのでしょうか…。

【良い機会なので、「業務の棚卸」をやってみました!】
今回、S歯科さんでは、補充を考える前に「従来の患者数が来ている時、この人数で1人でも欠けるとオーバーワークになってしまう体制そのものに問題はないのか?」という点に着目し、まずは、「業務の棚卸」をやってみることにしました。 「業務の棚卸(=業務の可視化)」とは、院長先生も含めた全員が現在行っている仕事を「毎日」・「1週間」・「1ヶ月」・「定期的」等に区分し、とにかく「書き出す」作業です。 次に、書き出した内容について下記の区分を行いました。

 1.自分しかできない業務

2.自分以外でもできる業務

3.やり方を変えるなど効率化ができる業務

4.無くしても良い業務(無駄な業務) 

これに取り組み始めた際、スタッフは「この人数がいないと回らないのは分かり切っているので、やっても無駄!」と非協力的でしたが…、売上の少ない中で人件費を増やすと賞与が出せないこと、逆に、この人数で回して回復すればいつもより賞与が出せる等の説明し協力を得ることができました。

【「業務の棚卸」・「業務の仕分け」で見えてきたものとは…】
まず、各人において「自分しか出来ない業務」というのはほとんど無く、「やり方さえ教えれば他人でもできる」業務が多かったことが分かりました。つまり、各人が「自分がやらないと!」と思って個々に抱えていた業務が多かったのです。

この問題については、現時点では自分しかできない業務について「マニュアル」を作成し、順次、院内研修にて他のスタッフにレクチャーを施し、共有することで解決しました。 次に、これを行うことで「もっと、こうした方が良いのでは?」という意見が出て皆で検討した結果、かなり効率が良くなった業務、個人的に必要と思ってやっていたが「無くても良いのではないか?」という結論で無くなった業務も多く出ました。 

結局、『業務の棚卸 → 業務仕分け → マニュアル化と共有化→ 業務整理』という一連の流れで、いかに自分たちが無駄な動きをしていたのか、また、この人数でしか回せないと思っていたが、実は、工夫次第で何とかなりそうなことが分かり、今回の「補充」は見送られることとなりました。 

【業務効率を下げる最大の原因が判明!!】
業務整理を進めた結果、業務そのものについては整理もできて効率も上がりましたが、それでも患者さんの多い日は繁忙感がぬぐえなかったことから、「何をしてそこまで忙しいのか、各自、1日の動き省察」してみたところ、患者さんへの対応に忙しいのは当然ですが、それ以外では、「探し物の時間」が突出して多いことが分かりました。

「探し物をする=あるべきところに収納されていない=整理整頓ができていない」という雑然さに加え、在庫がない、機器が故障する等のトラブルが発生した際に、すぐに連絡先が見つからない(貼っている情報が古く、連絡先が更新されていなかったケースも含む)という状況だったのです。

これでは、せっかく業務整理を行ったとしても意味がありません…。 そこで、S歯科では、今度は「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)活動」に取り組み、不要な物を思い切って処分し、物品の整理・整頓を実施どこに何があるかを「見える化」し、在庫(補充)ルールを設け連絡先一覧も刷新し、職場環境・業務内容ともに「業務改善」を成し遂げました。 

最近、S歯科は患者数が戻って忙しくなっていますが…、当然、人員補充をお願いに来るスタッフは誰もいません。

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