先日、S内科の院長先生から、「コロナ禍で業績が厳しく、特に小児は激減したので赤字は確実です。スタッフは、賞与は“多少、減らされる”と思っているらしいのですが、さすがに“無し”とは考えていないようです。この冬、他業種では“無し”のところも多いと聞きますし、ウチも余裕がないので“無し”にしたいのですが…。」というご相談がありました。
業績悪化の原因が一時的なものであり、今後、持ち直すことが見えていれば、無理をしてでもスタッフの皆さんの頑張りに報いてあげたいところですが…、今回のコロナ禍は、先が全く見通せないこともあり、非常に悩むところかと思います。
実は、S内科の院長先生以外の先生方からも冬季賞与についてご相談を頂いておりますので、今号にてS内科さんの取り組みをご紹介します。是非、ご参考にして下さい。
【そもそも…、「賞与」は必ず支給しなければいけないのか?】
まず、「賞与」とは、労働の対価として必ず払わなければいけない「賃金」とは違い、法的に「必ず支給しなければいけない」ものではありませんが、「賞与の有無」は労働基準法第15条であらかじめ明示することが義務付けられ、就業規則に「相対的必要記載事項」として必ず記載しなければいけないことになっています。つまり、賞与制度がある場合は、それを明記し、それに則った運用が必要ということなのです。
よって、もし、就業規則の中に「業績によっては支給しないことがある」等の記載がない場合、「無し」には出来ませんが、記載している場合は、「無し」でも違法にはなりません。
しかし、賞与は労使慣行で何年も継続していることが多く「期待権」があるとして「無し」にすると争いに発展する可能性もあり、また、賞与を生活給の一部に充当している人も多く、場合によっては生活が困窮し、安心して働けなくなるスタッフが出て来るかも知れません。
結論としては、『きちんとした制度に基づき、賞与「無し」にしても法的には問題ないが、現実問題として、それでは済まない可能性がある(争い・退職等)』ということなのです。
但し、今回のコロナ禍に於いて、国民には「特別定額給付金」、加えて医療機関には「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金」が支給されており、賞与のみに依存しなければいけない状況が少し緩和していると思われますので、これは、今回の決定に際して考慮して良いと考えられます。
【「無い袖は振れない」 ⇒ こういう時こそ「真摯な説明」を】
S内科さんでは、基準人件費率を売上の25%と定め、半期の人件費上限を算出、そこから既に支払った人件費(給与・社会保険料等)を引き、その残りを「賞与原資」としていますが…、今回は売上が大幅に下がっているため、この計算であれば、ほぼ、賞与原資がない状況でした。
そこで、院長先生は、単に「売上が減ったから」・「患者が減ったから」という曖昧な説明ではなく、賞与原資はどのように算出するのか、そして、現状の説明を丁寧かつ真摯に、そして正直にスタッフ全員を集めて説明しました。
スタッフさんの中には、コロナ感染のリスクに晒され、中には家族に反対されながら日々頑張っているので、賞与は「満額もらって当然」と考えている人もいたのですが…、院長先生が正直に説明したことや、「特別給付金」や「慰労金」をもらっていることもあり、賞与原資がないことに理解を示し、この冬は「大幅な減額」になることを承諾してもらいました。
しかし、院長先生としては、これでは皆さんに申し訳ないので、賞与原資とは別に、新型コロナウイルス関連の「補助金」や「給付金」を原資として従来通りの水準で賞与を支給しましたが、一度、諦めていたスタッフ全員が感謝したのは言うまでもありません(院長先生の真摯さで感謝が倍増)
【今年の4月から「同一労働同一賃金」では…?】
賞与を支払って、皆に喜んでもらって安堵したのも束の間、「来年から、同じ職種では常勤も非常勤も同額もらえるのですか?」と、お小遣い程度の「寸志」しか払っていない非常勤の看護師さんが質問に来ました。聞くと、来年の4月から、常勤と同じような待遇になると楽しみにしているとのこと…。
未だ、コロナ禍の収束が見えず、来年の夏季賞与もどうなるか分からない中、この問題でトラブルになってもいけないので、この機会に常勤と非常勤の業務内容の違いを整理し、厚生労働省のガイドラインに書かれている『同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給』、つまり、きちんと金額の違いを説明出来る「根拠」を明確にしておきました。
【ポイントは「明確化」と、働きやすい「環境整備」!!】
今号でご紹介したS内科さんの実例ですが、ポイントは、①自院の賞与の決め方をスタッフに周知する、②結果について真摯に説明をする、つまり、「明確な基準」と「正直な心」でスタッフさんと「信頼関係」を構築することが大切ということではないでしょうか。また、労働法制の変更にも気を配り、常に安心して働ける環境を作ることも忘れてはいけません。