皆様、「電子帳簿保存法」という法律をご存知でしょうか?
実は、令和6年より、殆どの事業者で対応が必要となる重要な法令なのですが、その認知度はまだまだ低いように思われます。
そこで今号では、本法令の概要について解説していきます。
1.電子帳簿保存法とは
法人税や所得税、消費税といった税法では、事業者に一定期間(原則7年)の書類の保存義務が課されています。とはいえ、請求書や領収証等、各種帳簿類を全て紙で保存し続けるのは場所を取りますし、コストや手間もかかります。
そこで、ペーパーレス化により、書類の保存に係る負担を軽減するため、一定の要件を満たすことで電子的な保存(データ保存)をできるように定められたのが「電子帳簿保存法」です。
この法令は、1998年7月に施行されましたが、当初は保存要件がかなり厳しく、なかなか普及が進みませんでした。その後、時代の流れと共に複数回の改正が行われ、徐々に要件の緩和が行われたことで、少しずつ導入する企業も増えてきました。とはいえ、あくまで対応は「任意」だったこともあり、中小はじめ多くの事業者は積極的な導入はしてこなかったのですが、2022年の税制改正により、多くの事業者で対応が必須となりました。
まず、電子帳簿保存法は、次の3つの保存制度から成っています。
(1)スキャナ保存制度
(2)電子取引データ保存制度
(3)電子帳簿等保存制度
(1)の「スキャナ保存制度」は紙で受け取った請求書等をスキャンしてデータ保存する制度、(2)の「電子取引データ保存制度」はEメールやHPからのダウンロードなど電子的に授受した取引情報をデータで保存する制度です。(3)は実務的に会計事務所側の業務なので今回は省きます。
上記3つの保存制度のうち、「電子取引データ保存制度」が、2022年税制改正により義務化されたのです。これにより、メール等で授受したデータについては、データのままの保存が義務化、従来のような「紙に印刷したものを原本として保存する」という方法は使えなくなりました。
なお、対象となる書類には以下のようなものがあります。
・ホームページからダウンロードした請求書や領収書
・Eメールによる請求書や領収書
・クレジットカードの利用明細データ
・インターネットバンキングの振込データ等
セミナー代などは、EメールやHPからダウンロードするものも多いので、対応が必要となる場合が多いと考えられます。
2.医療機関で必要な対応
医療機関はその業態から、電子取引データの発行側に回ることはほぼないかと思われます。
ですので、必要となる対応は「どう保存するか」です。
電子帳簿保存法では、電子データの保存に「真実性」と「可視性」という2つの要件が求められます。
(1)真実性
真実性とは、書類の内容の改竄・削除の抑止対策をいいます。
具体的には、次のいずれかの措置をとらねばなりません。
①発行者側でのタイムスタンプの付与
(※タイムスタンプとは、その電子文書が「作成された日時」と「その刻印後に改竄・削除がされていない」ことを証明するもの)
②医院側でのタイムスタンプの付与
③データの改竄・削除ができない、又は痕跡が残るシステムの利用
④改竄・削除の防止に関する「事務処理規定」の備付け
一番簡単なのは、①の発行者側でのスタンプ付与ですが、全ての取引先が対応しているかは当然ながら不確実です。
②及び③では、専用のシステムの導入が必要であり、導入費用や月額利用料等の負担が想定されます。
そのため、コストもかからず導入も容易な④が、現実的な選択肢といえるのではないでしょうか。「事務処理規定」としては下記のような項目が求められます。
・電子データ取引の範囲(Eメール・HPからのDLなど)
・対象となるデータ(証憑の種類)
・訂正や削除をする場合の条件や方法
・管理責任者、処理責任者及び、規則に従う人の範囲
なお、「事務処理規定」の雛形については国税庁HPで公開されておりますので、そちらを参考にされるとよいかと思います。
(2)可視性
可視性とは、税務調査時に電子データを整然とした形式及び明瞭な状態ですぐに出力できるようにすることです。
具体的には次の措置をとる必要があります。
①見読可能装置の備付け等
→パソコンの画面やプリンターなど電子データを出力して確認できる設備、及びその取扱説明書を備え付けておくこと
②検索機能の確保
→「取引年月日」・「取引金額」・「取引先」を条件とした検索ができるようにしておくこと
方法としては、Excelで索引簿を作成する、あるいは規則的なファイル名を付す(例:20230401_100000_A社)などが考えられます。
その他にも、電子データを保存する際には、保存先のフォルダを年度毎に分け、さらに見積書・請求書・領収書など証憑別にフォルダ分けしておくとより分かり易くなります。
規定の作成や、担当者への制度の周知徹底など、実務的に相当な負担が生じることとなりますが、一先ず義務化されるのが電子取引データ保存のみなのがせめてもの救いでしょうか。
なお、年間の売上高が5千万円以下(消費税とは無関係、全体の売上で判定)の事業者、又は電子データを紙に印刷して提示・提出できるようにしている事業者については、上記の検索要件は免除するという猶予規定が令和5年度の改正で追加されました。
ただし、データの保存義務自体はありますので、いずれにせよ対応は必須です。
電子データ保存は、令和6年1月1日より対応が必須となります。果たして中小・個人の事業者レベルでどこまで対応できるのか甚だ疑問は残りますが、対応を検討する必要があります。
より詳細な内容(各論)については次号以降で解説する予定にしております。