今号では、配偶者居住権の後編と、3月に公表された公示地価について解説して参ります。
1.配偶者居住権
「配偶者居住権」とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、同居していた配偶者が、その亡くなった人の所有していた建物に、一生涯(もしくは定めた期間)、無償で居住することができる権利です。
前編では、制度の概要と配偶者の生活資金の確保について解説を行いましたので、後編では節税効果とその他留意すべき事項について解説して参ります。
(1)節税効果
配偶者居住権は、民法上は建物のみに係る権利ですが、相続税法上は、建物に係る「配偶者居住権」と、土地に係る「敷地利用権」の両方を取得したものとして相続税が課税がされます。
具体的な算式は煩雑なので省略しますが、相続時点の配偶者の平均余命=自宅を利用する期間が長いほど評価額が高くなります(ちなみに女性の方が平均余命は長いので評価も高めです)。
ケースバイケースなのであくまで参考程度ですが、例を上げると、
・相続税評価額:建物2,000万円、土地6,000万円
・建物の耐用年数:33年、相続時までに10年居住
・相続人:妻70歳、子
⇒配偶者居住権:1,855万円 敷地利用権:2,676万円
⇒合計4,531円が配偶者の取得分(仮に妻75歳では4,099万円に下落)
また、この配偶者居住権を差引いた金額、上記(70歳)の例では
建物2,000万円-1,855万円=145万円
土地6,000万円-2,676万円=3,324万円
⇒自宅を取得した相続人(子)の相続分
そして本題である『何故節税になるか?』ですが、この配偶者が取得した「配偶者居住権」と「敷地利用権」は、配偶者の死亡と同時に消滅し、配偶者から子への相続のタイミング(二次相続)においては、その部分の相続税の課税が生じないからです。
結果として、子は、相続人が亡くなった最初の相続(一次相続)の時に負担した建物所有権と土地所有権に係る相続税のみで自宅の全てを取得することができるのです。
ちなみに、「敷地利用権」部分は小規模宅地等の特例も適用できますが、相続人の状況や財産の内訳によっては他の方法の方が節税となる場合もあるため、一概に最善策というわけではありません。
また、次に掲げるデメリットも発生するため、設定するかどうかは事前によく検討しなければなりません。
(2)デメリット
①売却・賃貸はできない
配偶者居住権は、あくまで住む権利です。
所有権は他の相続人に帰属するため、譲渡することはできません。
また、賃貸することもできないため、生活資金や施設への入居に充てるための資金源にはなりません。
②必要経費の負担
配偶者居住権を取得した配偶者は、その建物にかかる必要経費(固定資産税や簡易な修繕費)を負担すべきとされ、他の相続人(取得者)との関係が良好でない場合等は請求される可能性もあるため事前に負担内容について協議すべきでしょう。
③途中で解除すると贈与税がかかる
前号でも書きましたが、配偶者の死亡又は定めた期間より前に配偶者居住権を解除すると、その部分は自宅の所有者に対する贈与になりますのでご注意ください。
(3)その他の注意点
①配偶者居住権が設定できない場合
建物が被相続人と誰かの共有財産である場合、共有者が配偶者であれば問題なく設定可能ですが、配偶者以外の第三者との共有財産である場合、配偶者居住権は設定できません。
②登記
配偶者居住権は登記により第三者に対抗することが可能です。
権利の成立自体には登記は不要のため義務ではありませんが、相続人同士の仲が良好でない場合等は、知らぬ間に他者に売却されるなどのリスクもありますので、権利設定後は直ちに登記を行った方が良いでしょう。
2.令和6年公示地価
先月26日、国土交通省より令和6年の公示地価が公表されました。
(下記は前年比上昇率/単位:%)
全用途平均 | 住宅地 | 商業地 | |||||
R5年 | R6年 | R5年 | R6年 | R5年 | R6年 | ||
全国 | 1.6 | 2.3 | 1.4 | 2.0 | 1.8 | 3.1 | |
三大都市圏 | 2.1 | 3.5 | 1.7 | 2.8 | 2.9 | 5.2 | |
東京圏 | 2.4 | 4.0 | 2.1 | 3.4 | 3.0 | 5.6 | |
大阪圏 | 1.2 | 2.4 | 0.7 | 1.5 | 2.3 | 5.1 | |
名古屋圏 | 2.6 | 3.3 | 2.3 | 2.8 | 3.4 | 4.3 | |
地方圏 | 1.2 | 1.3 | 1.2 | 1.2 | 1.0 | 1.5 | |
地方四市 | 8.5 | 7.7 | 8.6 | 7.0 | 8.1 | 9.2 | |
その他 | 0.4 | 0.7 | 0.4 | 0.6 | 0.1 | 0.6 |
≪動向≫
(全国)
全用途平均、住宅地、商業地のいずれも3年連続で上昇し、上昇率が拡大しています。
全用途平均の上昇率はバブル期以来33年ぶりの高さです。
(三大都市圏)
上昇が継続しており、上昇率が拡大しています。
(地方圏)
地方四市の全用途平均、住宅地の上昇率は縮小したものの、上昇自体は継続、商業地は上昇率が拡大しています。
また、その他の地域ではすべての上昇率が拡大しています。
昨年5月にコロナによる行動制限が撤廃されたことにより、人流が活発化、インバウンドや個人消費の増加により店舗需要が増え、またオフィス需要も堅調でした。大手半導体メーカーが進出した熊本や北海道、またリゾートエリア・観光地などで地価の大幅な回復が見られました。