先日、F院長から『産休に入るスタッフから“医師国保では出産手当金は出ますか?”と聞かれたので問い合わせたところ「出ない」と言われ、それを伝えたら“協会けんぽなら出るのに”と恨み事を言われてしまいまして…。これを機に保険による制度や給付の違いを教えて下さい』とご依頼がありました。
今号では、F院長のご質問にお答えする形で情報を整理し、各保険の違いを分かりやすく解説したいと思います。
【そもそも、「協会けんぽ」とは何ですか?】
よく、「社会保険」と「協会けんぽ」を混同してお話される方がおられるのですが、正確には、「協会けんぽ」とは2種類ある社会保険の1つで、全国健康保険協会が運営し、主に中小企業が加入する健康保険を指します(ちなみに、もう1つは常時700名以上の従業員を抱える大きな企業が自社で設立した「組合健保」という健康保険のことです)。
【それでは、「医師(歯科医師)国保」とは何ですか?】
これは、Dr.である皆様には釈迦に説法となってしまいますが、ご存知の通り、各都道府県の医師(歯科医師)会が運営する保険制度で、医師(歯科医師)会に所属する医師と家族、及び事業所の従業員が加入の対象となっています。
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※ 参考:協会けんぽと医師(歯科医師)国保の違い
協会けんぽ | 医師・歯科医師国保 | |
加入要件 | 事業所において要件を満たした場合に加入※1 | 都道府県の医師会に事業主や理事長が所属※2 |
出産手当金 | あり | なし(組合や支部により相違) |
傷病手当金 | あり | なし(組合や支部により相違) |
産休・育休中の保険料 | 申請により免除あり | 免除なし |
保険料 | 半額事業所負担賞与からも徴収あり | 被保険者が全額負担賞与からの徴収なし |
扶養 | あり | なし |
※1 事業所…法人組織か常時5人以上の労働者を雇用している事業所は協会けんぽ・厚生年金の適用事業所になります。
※2 医師国保は従業員が常時5人未満の事業所が対象ですが、法人組織や常時5人以上の事業所でも適用除外承認を受ければ加入可能です。
凡その比較ですが、この機会に再確認頂ければと存じます。
【給付内容の違いについて】
次に、給付内容についてですが、保険給付には健康保険法上、保険者に義務付けられている「法定給付」があり、その中でも必ず給付しなければならない「絶対的必要給付」と、特別な理由がない限り給付しなければならない「相対的必要給付」があり、さらに、組合や支部によって給付の有無が変わる「任意給付」があります。
● 法定給付 (共通) □ 絶対的必要給付 ・ 療養給付・療養費の支給 ・ 高額療養費の支給・移送費の支給 □ 相対的必要給付 ・ 出産育児一時金・葬祭費 ● 任意給付 (組合や支部による) ・ 傷病手当金・出産手当金 |
F院長が質問された「出産手当金」は「任意給付」に該当し、所属する医師国保では給付がなかったということです。
【制度のメリット・デメリットを整理し、労使で話し合いを!】
医師国保は、事業所が保険料を負担しなくても良いこと、保険料が一定なので、収入が増えても保険料が増えないため、事業主からすればメリットが多いかも知れませんが、従業員からすれば一定でも加入者ごとに保険料が必要なため家族が増えると保険料が上がること、産休に入っても保険料の免除がないこと、先述の通り、協会けんぽと同等の給付が受けられないこと等のデメリットがあり、国民年金のままであれば老後資金の積み上げもできません。
翻って協会けんぽは、保険料は従業員と折半、収入によって保険料が変わるので事業主からすればデメリットに感じるかも知れませんが、従業員からすれば保険料の半分は事業主が負担してくれて、被扶養者の数で保険料が変わることなく、産休に入れば保険料は免除され、給付内容も充実、厚生年金で老後資金も増やせるのでメリットは多大です。
それでは、従業員のために協会けんぽに加入すれば良いのかと言えばそうではなく、控除額が増えて毎月の手取りが少なくなることを嫌がる方もおられますので、一度、お互いにどうすればベストなのか話し合ってみてはいかがでしょうか。もし、ご自身だけでは不安という先生方はご相談下さい。