労務・人材活性化

医療法人の「休止」 ⇒「再開」は可能か?

経営VOL.139

先日、クライアントであるCクリニックさん(医療法人)を訪問した際、『なかなか患者さんが戻って来ず、このままでは、医院の存続が厳しいです。将来、他所で勤務医をやっている息子に当院を継いで欲しいと考えているのですが、このような状況ですので、息子も承継には慎重で、承継してくれるとしても時期はいつになるか…。

そこで考えたのですが、医療法人を存続させるために、診療所を「休止」させ、時期が来たら承継させて「再開」すれば良いのではないかと…。こんなことは可能なのでしょうか?』という質問を頂きました。 この方法が可能であれば、体制が整ったところで事業を「再開」するため、医療法人を一旦解散して新設するよりもコストはかなり抑えることができそうです。また、後継者が見つかるまでのタイムラグも上手く調整できるかも知れません。

医療法人には様々な制約がありますので、果たして、一旦「休止」して、その後、「再開」が可能なのかどうか、今号にて、その「可能性」について探っていきたいと思います。 

【診療所の「休止」には「正当な理由」が必要です!】
診療所を休止するには色々な届出が必要で、その中の一つに「休止届」という保健所に提出するものがあります。これには「休止理由」「期間」を書くのですが、「再開の意思」があり休止が認められる「正当な理由」が必要です。 

○ 「正当な理由」とされているケース

・ 管理医師が入院し、一時的に休止する場合

・ 医院の全面改装などで一時的に診療ができない場合

・ 管理医師の突然死等で、後継者を探す間の一時的な休止(個人の場合は死亡した時点で廃業となります) 

尚、「休止の見込み期間」については個別事情による判断となりますが、原則1年を超える期間は認められません

保健所としては、休止期間が1年を超える場合は「事業の廃止」としか言えない、とのことでした。なぜ、1年という期間が定められているのかと申しますと、下記の通り「医療法8条の2」が根拠になっているのです。 

□ 医療法8条の2

病院、診療所又は助産所の開設者は、正当の理由がないのに、その病院、診療所又は助産所を1年を超えて休止してはならない。(以下略) 

【今回のケースはどうなるのでしょうか?】
先述の「正当な理由」から鑑みると「業績不振」という理由で一旦「休止」することは原則認められません。休止しても立て直しの目途が立たないのであれば、実質は経営破綻であり解散ではないか、というのが行政の見解です。また、「将来的に承継するため」としても、承継時期が1年以内ではなく、不透明であれば認められません。 

医療法65条では、医療法人が正当な理由なく1年を超えて事業を再開しない場合は認可を取り消すことができると規定されています(実態のない医療法人格の売買でトラブルが多発しており、これらを未然に防ぐためとのことです)。

□ 医療法65条

都道府県知事は、医療法人が、成立した後又はすべての病院、診療所及び老人保健施設を休止若しくは廃止した後一年以内に正当の理由がないのに病院、診療所又は介護老人保健施設を開設しないとき、又は再開しないときは、設立の認可を取り消すことができる。

尚、Cクリニックさんは賃貸物件であり、休止しても家賃が発生します。当然、空家賃を払い続ける訳にはいかないため、結局、休止と同時に賃貸借契約を解約し、設備等も処分しますので「法人格」のみを残す状態、いわゆる、診療所や設備がない、医療法人格のみが存続している「実態を伴わない医療法人」となってしまいます。加えて、こうなった場合、医療法人の所在地は、一旦、自宅等に「移転登記」をすることになりますので「定款変更」が必要になります。

この定款変更手続は都道府県にて行いますが、都道府県としては、この状態での定款変更については受付が難しいとのことでした。 但し、正当な理由があり、1年以内に承継が確実に決まっているのであれば、その時期が来るまで休止し、承継後に事業再開することは「可能」です(行政としては、現状、院長が高齢で診療が難しく、1年以内にご子息が承継することが確定している場合等であれば問題ないとのことです)。 

結局、Cクリニックさんの現状では、院長がお考えである「休止⇒体制が整った際に(承継後に)再開」というプランは難しいということになりましたが、承継までの道筋が見えたので、ご子息を説得しながら診療を続けることとなりました。

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