AMCPレポートでは、毎年、年末年始を迎えるに際し、クリニック経営について時間を取ってじっくり考えて頂きたいとご案内し、そのために必要なツールや情報の提供をしておりましたが、今回の年末年始はいかがでしたでしょうか。もし、何もされていないという先生方は、今からでも是非、過去のレポートなどを参考に取り組んで頂ければと存じます。
さて、仕事についてじっくり考えるのは従業員も同じのようで、年初早々、『連休明けに退職代行サービスの利用者が急増』というニュースがありました。ご存知の通り、今回の連休は『奇跡の9連休』と言われ多くの人に喜ばれていましたが、逆に、休み過ぎて色々考えたり、色々な人に会ったりした結果、退職を決断する契機になってしまったようです。
元来、長期休暇後の退職としては“五月病”が有名ですが、これは新入社員や転職者等、新しい環境で緊張が続いた人が、GWに一気に疲れが出て…、というお話です。しかし、今回、退職を申し出ているのは、新しい環境で働いている人に限った話ではないということから、「退職代行」という手軽に退職できるサービスの登場ということもありますが、どこの事業所も人材不足で賃金も高騰していることから、今後、ますます雇用の流動化に拍車が掛かると思われます。
従いまして、2025年の最初の話題は、次の年末年始も9連休にするところが多いと言われていることから、今回、退職者が出なかったクリニックでも、この世相を「対岸の火事」と捉えず「当院でも“あるかも知れない”」という意識を持って頂くためにも、改めて「スタッフの定着」について取り上げます。
【どんな対策を講じても無理?そんなことはありません!】
スタッフの退職理由としては、家庭の事情や健康上の問題等、やむを得ない理由以外で自ら退職する場合、以前は給与や労働時間等の「待遇」や「人間関係」、「各種ハラスメント」等の理由が多かったのですが、最近は、待遇や人間関係に問題がなくても価値観が合わない、ホワイトな労働環境でも緩過ぎて成長できない(ゆるブラック)等の理由で辞めてしまいます。このような就労に対する良識がない相手には限界があるというのは以前お伝えしました(Vol.183:『ダイバーシティ時代の「良識」に対する心構えとは』参照)。
しかし、中には「良識」のあるスタッフもおり、こういうスタッフこそ定着してもらわなければいけません。そのために、是非知っておいて頂きたいことを年初に2つご紹介させて頂きます。
【知っておいて頂きたいこと①:ダブルバインド(二重拘束)】
ダブルバインド(二重拘束)とは『矛盾する2つのメッセージを同時に受け取りストレスを抱える状態』です。例えば、院長から「何でも聞いて」と言われ、聞きに行くと「自分で調べて」と言われ、自分で考えてやると「なぜ確認しない?」と言われる、要は、聞いても聞かなくても叱られるので、どうして良いか分からずにストレスを抱える状態を指します。院長としては「普通、こんな忙しい時に聞いて来ないだろう」「何でも聞いてと言ったが、さすがにそれぐらいは…」等の言い分があると思いますが、それは院長の「普通」であり、院長の中にある「非言語の前提」ですのでスタッフには伝わりません。他にも、ルールを守れと命じている院長が守らないというような「言行不一致」も、院長の中できちんとした理由があっても、それが分からないとスタッフは不信感しか抱きません。
つまり、「どうしたら良いのか分からない状態」が続けば、能力がある人ほど自分の力を発揮できずに退職してしまいますので、今年は『新しい人でもすぐに働ける分かりやすい環境になっているか(非言語のローカル・ルールが多く、新しい人が働きにくくないか)』について意識して頂ければと存じます。
【知っておいて頂きたいこと②:ロサダライン(3:1の法則)】
『ロサダライン(3:1の法則)』とは、アメリカの心理学者であるロサダ氏が業績の高いチームと低いチームを10年に渡り観察し、成功には最低でもポジティブな要素とネガティブな要素の比が3:1でなければいけないことを導いた法則です。つまり、ネガティブ(不機嫌)な人が1人いても、ポジティブ(上機嫌)な人が3人いれば組織は上手くいく=「上機嫌なチーム」であれば上手くいくということで『上機嫌の法則』と呼ばれ、まず、リーダーが明るく振舞うことで、その組織は活性化し、チームメンバーの定着に繋がるとされているのです。
院長が明るく振舞えば、「ミラーニューロン」という神経細胞により、明るさが職場に伝播し、雰囲気が良くなります。そうなればダブルバインドも起こりにくく、コミュニケーションが円滑になり、結果、院長もスタッフもストレスが減り、生産性が上がり、それに伴い患者満足度も上がり、働くことが楽しくなり離職率は下がります。
もちろん、明るく振舞い続けるのは難しいかも知れませんが、これで仕事ができる「良識」のあるスタッフが定着してくれるなら試す価値はあると思います。
今号ではスタッフの定着に必要な「働きやすさ」に必要な2つをお送りしましたが、詳細が知りたい、また、導入にお手伝いが必要ということであれば、遠慮なくご連絡下さい。