最近、本レポートでは、ご相談が多い「採用」と「定着」に関する記事を取り扱っておりますが、今号もクライアントのF先生から、『先日、最近では珍しい“優秀な人材”を採用することが出来ました。経験もあって実務能力も高く、愛想もあって申し分なかったのですが1ヶ月で退職してしまいました。理由を聞くと、理解して入職しているので賃金や休み、勤務時間ではないし、人間関係に問題があった訳でもないと…。ただ、“自分はここではやっていけない”ということでした。何が考えられるでしょうか?』というご相談がありました。
退職原因の多くを占める「人間関係」と「待遇(給与・時間・休日)」に不満がないのであれば、働きやすい職場と思われますので、F先生が困惑されるのは当然だと思います。
しかし、今後も同様のことがあっても困りますし、先生も手の打ちようがないので、『後学のために』と、改めてそのスタッフさんに面談の時間を頂き、お話を伺わせて頂きました。
そこで、今号では、この聞き取ったお話をご紹介しつつ、「待遇」や「人間関係」以外の「新人さんを迎える留意点」、「そもそも優秀な人材とは」について記載させて頂きます。
【“ここではやっていけない”の真意を聞くと…。】
まず、退職者が口にする「ここではやっていけない」という言葉には2種類あり、1つは、レベルが高過ぎて「付いていけない」、もう1つは、レベルが低過ぎて「付き合ってられない」というもので、今回のスタッフさんは後者だったとのことです。
詳しくお伺いすると、まず、マニュアルがないため教える人によって言うことが違い、確認するにしても誰に聞けば良いか分からない、もちろん、先輩方は「何でも聞いてね」とは言ってくれて優しいものの、埒が明かずに仕事を覚えようとしても進まないこと、次に、物品や材料などが、どこに何があるのかが分からない、片付け方が雑然としており、ここにあるはずのものがない、先輩たちも「あれ、どこに置いた?」と言いながら和気藹々と探し、「あったあった!誰?こんなところに置いたの!」と言いながら全く改善しようとしないこと、要は、スタッフ同士、仲良しなのは結構なことですが、仕事中は切り替えて欲しいと思いつつも、新人の自分からは言えないというストレスがあったとのこと、加えて、院内の掲示物が古かったり、破れていたり、患者さんの動線もモノが溢れ、患者さんの見える場所に他の患者さんの個人情報があるという状況などもご自身の職業倫理からは許せなかったということでした。
【本当に新しいスタッフを迎え入れようとしているのか?】
後日、この面談内容の報告を聞いて、F先生は少なからずショックを受けておられました。
なぜなら、地域では雰囲気が良いと評判で、スタッフの入れ替わりも少なく、ファンも多い「繁盛店」であり、今の状態に満足されていたからです。そうなると、当然、非は辞めたスタッフにあることとなり、F先生は「このスタッフはウチには合わなかった」と結論付けられました。
しかし、これで終わってしまえば、今後、どれだけ優秀なスタッフを採用したとしても、同じことの繰り返しになってしまいますので、これを機に、以下の確認をご提案しました(↓)。
□ 新人を迎え入れる準備はできていたのか → 教える人・内容・使用ツール・スケジュール □ 新人が来たら、不安にしない「声掛け」をしていたか → 教育担当でなくても、「どう?」ぐらいは言えるはず □ 話しやすい、聞きやすい環境を作っていたか □ 新人が「困る」「違和感がある」環境ではなかったか |
結局、これは難しいことではなく、今が当たり前と思っている皆さんが、もし、初めてこの医院に来たと仮定した場合、どうなっていれば働きやすいか、新人さんの気持ちに立って準備していたかどうかです。
F先生とスタッフの皆さんは、この点は反省し、次は話し合ってきちんとしますと仰っていました。(いわゆる、「オンボーディング」の実践ということです)
【先生にお聞きします。当院にとっての優秀な人材とは?】
次に、F先生には「当院で優秀な人材とは?」について、つまり、世間一般に言われる「優秀な人材」ではなく、「当院にとって優秀な人材とは?」について整理して頂きました。
つまり、例えば、郊外で年配者が多い患者層で、スタッフとの緩やかな関係性があるような医院に、キビキビ動いてハッキリとモノを言う「キャリアウーマン」のようなスタッフや、一流ホテルで完璧な接遇を身に付けた隙のないスタッフが必要かということです。
また、自主性があれば勝手をするかも知れませんし、自論を積極的に述べる人は、自己主張が強く、院長の言うことを聞かなくなる可能性もあります。
結局、新人さんの定着とは、入口で「当院に必要な人材」を明確にし、採用に至ったら、全員で迎え入れる準備をするということに尽きるということなのです。是非、参考にして頂ければ幸いです。