財務・税務戦略

医療法人における「寄附金」の取り扱い

財務VOL.180

法人の寄附金は、その損金算入に一定の制限がかかるため、支出を予定している場合には注意が必要です。今号では、その制限計算の内容も含め、まとめて解説して参ります。

1.寄附金の種類
寄附金の相手先及び内容により、次の通り区分がされています。

①国又は地方公共団体に対する寄付金

②指定寄附金
公益法人等に対する寄附金で、次の要件を満たすと認められるものとして財務大臣が指定したもの
・広く一般に募集されている
・公益の増進に寄与するための支出で緊急を要する

③特定公益増進法人に対する寄附金
教育・科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するもとの認められた特定公益増進法人の、その主たる目的である業務に関連する寄附金

④認定NPO法人に対する寄附金

⑤特定公益信託の信託財産とするために支出した金銭

⑥一般の寄付金
政治団体や宗教法人、町内会等への寄付金、その他の寄付金

2.損金に算入される額
上記の寄附金を損金算入の区分別にまとめると次の通りです。

①国又は地方公共団体 全額損金
②指定寄付金
③特定公益増進法人 「特別」損金算入限度額まで
④認定NPO法人
⑤特定公益信託
⑥一般の寄附金 損金算入限度額まで

次に実際の限度額の算式を見ていきます。医療法人の場合、出資持分の有無により次の通り分かれます(例示として出資金1,000万円[持分なしの場合0円]、所得500万円の場合の限度額を併記)。

(1)出資持分のある医療法人
①「特別」損金算入限度額
{(期末出資金の額×0.375%×当期の月数/12)+(所得の金額×6.25%)}×1/2
例示限度額……175.000円

②損金算入限度額
{(期末出資金の額×0.25%×当期の月数/12)+(所得の金額×2.5%)}×1/4
例示限度額……37,500円


(2)出資持分のない医療法人
①「特別」損金算入限度額
(所得の金額)×6.25%
例示限度額……312,500円

②損金算入限度額
(所得の金額)×1.25%
例示限度額……62,500円

いかがでしょうか。利益の出ている法人については、損金算入限度額の計算が所得のみによって計算される「出資持分なし医療法人」が有利、逆に赤字あるいは利益が少額である場合には、利益以外の要素(出資金額)が考慮される「出資持分あり医療法人」が有利になる可能性があると言えるでしょう。
いずれにしましても利益額が少額な法人については寄附する金額(特に先述の表における一般の寄附金)については注意が必要です。

3.その他、寄附金における注意事項
(1)寄附金とすべき支出が他の勘定で処理されていないか
税法上、寄附金の定義は「名称に関わらず、対価性の認められない、見返りを求めない金銭の支出等」とされています。そのため、拠出金見舞金など、交際費、福利厚生費となりそうな名目の支出であっても、その実質が寄附金であれば、税務上は寄附金として取り扱うこととなります。

(2)個人が負担すべきものではないか
学校法人へ法人名義で寄附を行う場合、寄付先の学校が先生方の母校、又はお子様の通われている学校である際には、その寄附金を法人が負担すべき理由があったと判断できる場合を除き、個人が負担すべき寄附金として、役員賞与(損金不算入)とされる恐れがあります。

4.企業版ふるさと納税
法人の寄附金関係ということで、企業版ふるさと納税についても軽くご紹介いたします。

地方公共団体が行う地方創生の取組に対する寄附について、法人税等の税額控除が受けられる制度で、概要は以下の通りです。

指定寄付金に該当するため、寄附の全額が損金

②寄付額の最大60%が税額控除

③ただし控除額は税額を基礎として算出し、また基礎となる税額の20%(一部5%)を上限とするため、実質的には所得の1%前後が限度額

経済的見返り(返礼)はなし

最低10万円から

実効税率30%と税額控除60%で支出額の最大90%の税額軽減、という制度ですが、注意が必要なのは、医療法人には税額の軽減措置があるため、理論値の効果は得られないという点です。
60%の控除額のうち20%が事業税を元に計算されるのですが、医療法人は収益全体のうち社会保険診療部分が事業税の非課税となるため、その分控除額が少なくなります。
また実効税率も20~27%程度ですので、普通法人ほどの効果は見込めないのです。

そもそも最大90%の税負担が軽減できたとしても、見返りのない(当然ですが)支出なので、考え方としては地方税の先払いに過ぎず、むしろ1割無駄に払うことになります。
特段理由がない限り、積極的におすすめはいたしません。

なお、本制度は令和7年3月で終了となります。

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