ご存知の通り、今年の7月28日に厚生労働省の中央最低賃金審議会において、2023年度の最低賃金引き上げ幅が過去最高の39円~41円に定められました。
そして、これを受けて地方最低賃金審議会にて検討され、各都道府県の労働局長が地域の最低賃金を決定するのですが、いずれにしても、10月から大幅に最低賃金が上昇します。
国に定められた賃金を支払わなければ、最低賃金法に抵触し50万円以下の罰金という罰則があり、当然、これには従わないといけませんので、非常勤スタッフの時給だけでなく、常勤スタッフの時給換算も確認し、10月以降の金額に達しているのか、不足しているのであれば幾らプラスするのかという最低限の対応は9月中に行って頂ければと存じます。
【こんなにもある、最低賃金上昇の影響とは…?】
そもそも、最低賃金法は『賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び国民経済の健全な発展に寄与すること』が目的で、国の思惑通りであれば最低賃金を設定することにより労働者の生活が安定し、労働の質が上がり、経済が発展するはずなのですが…、実際はどうでしょうか。
まず、最低賃金が上がる=クリニックの賃金全体が底上げされます。つまり、新たに入職するスタッフの賃金が上がるため、既存スタッフの賃金を据え置くと賃金差が縮まる、つまり、既存スタッフの評価が下がることになるので、やはり、据置という訳にはいきません。
また、新たに採用するにしても、最低賃金で募集を出すクリニックは僅かで、それよりも上乗せした金額で募集を出すことから募集賃金も上がります。
加えて、扶養の範囲で働いている方は、時給が上がることにより勤務時間を減らさなければいけないケースも少なからず出ています。特に、時給単価の高い医療専門職(看護師・歯科衛生士等)に顕著となっています。
さらに、その方々の減った勤務時間を他のスタッフが埋めることによって残業が発生しますが、賃金が上がる=残業単価も上がります。それ以外にも、有給休暇の単価も上がりますので、休んでいるスタッフに今まで以上に給与を支払わなければいけませんし、もし、その日がスタッフ不足で回らなければ、本来、休みの方に出てもらわなければいけませんので、これも余計に賃金を支払う要因となります。
以上から、最低賃金が上がるということは、時給単価が上がるというだけではなく、その影響は多大なのです。
【保険診療中心のクリニックは、価格転嫁ができない!】
先述の、最低賃金が上がることによる人件費の増加だけでなく、それ以外にも、診療材料や備品、水道光熱費等も上昇しており、何もしなくてもコストは増加する一方です。
それでは、この上がったコスト分を、売上の価格に転嫁すれば何とかなるのかも知れませんが、クリニックの収入の中心は保険診療による売上であり、これが公法上の契約に基づいて運営されている以上、値上げをする訳にはいきません。それでは、今後、どうすれば良いのでしょうか。
【今こそ、経営の基本に立ち返るべき時期かも知れません】
経営とは「収入を増やし、支出を抑える」ことが基本ですが、何もせずとも支出が増えるならば、売上増を考えます。これまで、何回もお伝えした通り、売上とは『①患者数×②来院回数×③診療単価』であり、保険診療においては③が不可能(もちろん、算定漏れのチェックは必要ですが)ですので、①と②に注力するしかありません。
しかし、①・②を実施するということは、1日の来院患者を増やすことですので、それに対応する体制が必要となります。もし、対応できなければ、待ち時間やミスが発生し、せっかく増やした患者を離反させてしまうことになりますので、増患による収入増と増やすスタッフの人件費増のバランスを見ながら、自院で可能な体制をスタッフの皆さんと検討されると良いでしょう。 次に、現在、既に一杯で患者を増やす余地がない場合は支出を抑えることを考えます。つまり、診療材料や備品等のムダをチェックし、改めて相見積もりを取ったり節約したりという目に見える対策だけでなく、今の患者数を、より少ないスタッフ数で、より短時間で診ることが出来ないか、いわゆる「生産性」を向上させることが出来ないか考えるのです。
【生産性を向上させるために、何を検討するのか?】
日々、院長はじめスタッフの皆さんも忙しいと拝察いたしますが、検討の基本は『そもそも何に忙しいのか?』をクリアにすることから始まります。そのために「業務の棚卸」(日々、週間、月間、不定期に行っている業務の全ての書き出し)「業務仕分け」(無駄な業務、非効率な部分の書き出し)を行い、その結果を見て業務の見直しに全員で取り組みます。
クリニック経営を取り巻く環境は年々厳しくなる一方ですが、まだまだ、出来ることはありますので、今号の内容(生産性の向上)も含め、ご相談があれば遠慮なくご用命下さい。