本年10月1日のインボイス制度開始まであと2カ月を切りました。
当レポートではこれまでも幾度かインボイス制度について解説してきましたが、今回は直前号として、実務上必要な対応、特に仕入・経費関連の実務上の注意点について解説いたします。
1.消費税の計算方法による対応の違いの再確認
まず最初に、この制度は、事業者が適用している消費税の計算方法によって、必要な対応が異なるという点を再確認して下さい。
① 「原則法(本則課税)」を適用している事業者
売上に係る消費税から仕入等に係る消費税を引いて納付税額を計算する方法のため、仕入先等から受け取る請求書等は、原則、インボイスである必要があります。
② 「簡易課税制度」を選択している事業者
売上に係る消費税だけで納付税額の計算を行う方法のため、仕入先等からインボイスを貰う必要はありあません。ただし、自身が登録事業者である場合、売上については、取引先の求めに応じ、インボイスを発行する義務があります。
③ 「免税事業者」
売り手としても買い手としてもインボイスは不要です。
このため今号の内容は、「原則法」適用のケースになります。
2.取引先の管理
まず必要となるのは、取引先(仕入先等)を登録事業者とそれ以外に区分し、管理することです。
具体的には、取引先名と登録番号などをまとめた『管理表』を経理担当者に作成してもらう(検索や編集などができるようエクセルでの作成がベター)必要があります。
大企業では、事前に全ての取引先について登録有無の確認を行い、かつ、定期的に登録状況の確認を行うようなルーチンが組まれる(若しくはシステムの導入で対応する)のでしょうが、中小事業者の実務では現実的ではありません。
実際には、インボイスを受け取る毎に登録事業者か否かの事実を確認し、『管理表』にまとめていくことになるかと思われます。
そのうえで、領収書等に登録番号などの記載が無い取引先について、登録を行っていないのかの確認と、行っている場合には記載要件を満たしたインボイスの再発行の依頼をしていただくことになります。
なお、登録の事実の確認については、「適格請求書発行事業者公表サイト」にて登録番号を入力することで検索が可能ですので、ご利用ください。
3.インボイスの記載事項
次に、登録事業者である取引先の発行しているインボイスが要件を満たしているかどうかの確認です。
①売手の氏名(又は名称)及び“登録番号”
②取引内容
③税率ごとの税抜価額又は税込価額
④適用税率
⑤“税率ごとの消費税額”
⑥買手の氏名(又は名称)
⑦取引年月日
上記“太字下線部”が既存の領収書等からの追加項目です。
ただし、小売店や飲食店のレシート、コインパーキング、タクシーの領収書など、不特定多数を相手にする事業者のインボイスは買手の氏名や税率ごとの消費税額が書かれていない場合がありますが、それは「簡易インボイス」という簡易化された書式なので問題ありません。
4.口座振替による家賃等の支払い
「診療所の家賃」や「士業の顧問報酬」などは、契約書に基づき口座振替で毎月の代金決済が行われるため、取引の都度、請求書や領収書が交付されない場合が多く見受けられます。
そのような場合、取引先に新たに毎月のインボイスの発行を依頼しなければならないのかといえば、そうではありません。
インボイスの保存自体は必要なのですが、上述した記載要件を満たしてさえいれば、書類が複数に渡ってもインボイスとしては有効、という扱いになっていますので、取引先の登録番号と毎月の支払額に係る税率ごとの消費税額を追記した契約書を巻き直す、若しくは、それら不足している記載事項についての通知を取引先から受け保管しておけば、あとは取引年月日の証憑として銀行の振込明細を保管することでインボイスとしての記載要件は満たすことができます。
また、ごく稀かとは思いますが、取引先が個人の場合には、代替わりなどでいつの間にか登録の取り消しを行っていた、登録事業者が替わっていた、などということも想定されますので、決算時などには登録状況の確認をした方が無難です。
5.免除特例
(1)免除特例(新規)
3万円未満の公共交通機関(鉄道・バス・船舶)や自動販売機については、事業者のインボイス交付義務が免除されています。そのため、帳簿の保存のみで消費税の控除が可能です。
ただし、航空機については免除対象外ですので、ご注意ください。
(2) 3万円未満免除特例(現行)の廃止
そもそも現行制度では、3万円未満の経費については領収書の保存が特例により免除されています(消費税計算に限った話です)。ですが、制度開始後には当該特例は廃止、原則、全ての経費についてインボイスの保存が義務化され、上記の3万円未満の公共交通機関・自販機のみが免除対象となります(一部例外あり)。
特に、クレジットカード利用の経費については、インボイスの無いものは全て消費税が控除できなくなりますのでご注意ください(ちなみに高速道路のETCをクレジット決済にしている場合、クレジット明細はインボイスとして機能しないため、「ETC利用照会サービス」から利用証明書をとる必要がありますが、ご利用には登録が必要です)。
6.総括
ここまでの内容につき、実際の税務調査において、税務署側がどこまで厳格に適用してくるか現時点では不明ですが、条文や通達に規定してある以上、杓子定規な判断でも否認されればアウトです。可能な限り厳守した方がリスクを軽減できるのは間違いありません。