先日、初めて弊社の『クリニック経営無料相談』にお申し込み頂いたE先生ですが、ご挨拶を済ませた開口一番に、『とにかく、何をやっても文句ばかり言うスタッフがおりまして…、そこまで当院が気に入らなければ辞めてくれても良いと伝えたのですが“私は一生懸命働くみんなのために言っている”と憚らず、また、この姿勢に他のスタッフも同調し始め、本当に日々やりにくくて困っています…』、とお話しして下さいました。
確かに、このようなご相談は、以前から「お局さん」的なスタッフがいるクリニックさんからはよく頂いていましたが、インターネットの発達により、誰でも情報が得られる時代となり、デジタルネイティブ(特にZ世代)が労働市場の主力となっている昨今、急激に増えましたし今後も増え続けると思われます。
経営サイドからすれば、「嫌なら辞めてもらって結構」と言いたいところですが、我が国では経営者から労働者を「辞めさせる」こと自体が難しくなっていますし、人材不足が加速している現在、辞めてもらってばかりではクリニックが立ち行きませんので、何とか収めて上手く経営していきたいところです。
【そもそも、なぜ「文句」を言うのでしょうか?】
どこの職場にも存在するであろう「文句を言う人」について、その人のパーソナリティだと諦めている方も多いかも知れません。しかし、そのメカニズムを少しでも知ることにより、対処の方法も変わりますので、少しだけご紹介したいと思います。 よく、「文句を言ってスッキリした!」という言葉を聞かれたことがあると思いますし、皆さんも同じことを感じたことがあるかも知れませんが、これにはきちんとした理由があります。
まず、「スッキリした」というのは「心の負荷が軽くなった」ということです。なぜ、軽くなるのかと申しますと「自分以外のものに責任転嫁して心の負荷を減らしたから」であり、そのことによって自分を正当化できたり、他人から賛同を得たりした場合には「安心感」が加わるため、言いたいことを言った後は、大体は落ち着くのです。つまり、「文句を言う=自己防衛が成功=心を守ることができた」ということなのです。
また、「こうすれば良いのに!」という提案のような文句も、もちろん、ご本人の正義感や向上心からという場合もありますが、大抵の場合は「こんなに立派な意見を持っている自分を認めて欲しい」という承認欲求だけのことが多いのです。その他、心の防衛機制として、「逃避」、「同一化」、「投影」等ありますが、詳細はまたの機会にお伝えします。
【未熟な組織が起こす“集団浅慮”とは?】
E先生は、自分が何でも指示を出し、何でも決めるので文句が出るのだろうと考え、「そこまで言うなら現場のことは任せますので、きちんと皆で話し合って進めて下さい。そして決まったことは必ず報告して下さい。院長は、基本、皆さんの意見を尊重します」と、それまでのトップダウン型からボトムアップ型に替えたこともあったそうですが、その決定事項が余りに極端で、とても尊重できる内容ではなかったそうです。
決定事項の詳細は割愛しますが、要は、承認欲求の強いリーダーが、自分たちが働きやすくなることだけを考えているスタッフと一緒になって考えた結果なので、本来、個人では考えないような結論を出してしまう「集団浅慮=集団極化現象(議論が極端な方向に流れること)」が起こったのです。
【E先生が真剣に向き合った結果】
これまで、色々言われることに対して聞き流したり、スタッフだけで話し合わせたりしていたE先生ですが、今まで、きちんと聞いたことがなかっただけでなく、そもそも自分の考えをしっかり伝えていなかったことに気付き、前回のAMCPレポートで紹介した『互聴(お互いの話を傾聴する)』の機会を設け、そのスタッフの言い分をしっかり聴き、自分の考えもしっかり話しましたが…、結論としては目の前のスタッフの「働きやすさ」のみに執着するスタッフと、経営のことを踏まえ先のことも考えているE先生とは平行線で相いれず、「今まで頑張ってきたが報われないので退職する」と申し出られてしまいました。
【引き止めるべきか、引き止めなくて良いか、その判断は?】
スタッフの離職は、どの職場でも起こることですが、全ての離職を止めなければいけない訳ではありません。今回のように院長と相容れないスタッフを残しておくと、院長は「容認」したということになり、追随するスタッフが現れ、結局、人は足りていても中身が伴わない組織となり、いずれ崩壊します。
組織は「生き物」であり新陳代謝が必要であるため、原則、①組織のルール・考えに従わないスタッフ、②課せられた役割を果たさないスタッフの離職は止めなくても良いのです。
E先生は、このスタッフが退職すると残りのスタッフがかなり忙しくなるので人数としては必要と考えていましたが、この考え方に基づき退職を引き止めませんでした。すると残りのスタッフが、実は今までそのスタッフに抑圧されていた環境から解放され、全員でその穴を埋めるべく頑張ってくれるようになり、改めて新陳代謝の必要性が証明された結果となりました。