2019年12月に端を発したコロナ禍が世界経済を大きく揺るがせている中、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発、これに円安等の要因も加わり、現在、食品だけでなく水道光熱費等、あらゆるモノが値上げされています。自宅に届く電気代やガス代の請求書やスーパーでの価格等を見て、日々、驚かれている方も多いと思いますが、これらの生活に欠かせない支出(「基礎的支出」または「必需的支出」といいます)の節約には限界があり、値段を見ながらでも必要なモノは買わなければいけませんし、水道光熱も節電・節水を心掛けながらも必要な分は使用しなければ生活ができません。
それでは、この状況を乗り切るために「選択的支出」と呼ばれる基礎的支出以外の支出(趣味・娯楽・外食・旅行等)を我慢すれば良いかと申しますと、これも行き過ぎるとストレスが溜まってしまいますので適度には必要でしょう。
昨年頃から、この状況を少しでも緩和しようと大企業を中心に『インフレ手当』を支給するところが増えてきましたが、大企業のように内部留保が潤沢ではなく、保険診療が中心で基本的に値上げができない業態のクリニックでは、なかなか実施できるものではありません。
しかし、このまま何もしないと生活に苦しむスタッフが今よりも高い賃金を求めて辞めるかも知れませんし、そうなれば、ますます「人不足」となって日々の診療が回らず売上減となってしまうかも知れません。となれば、この状況を打破するためには院長とスタッフが一致団結して資金を捻出するしか方法はありません。
これまで、経営者とスタッフがお互いを批判したり、お互いの権利を主張したり、余計な出費を看過できたのは、まだ余裕があったからであり、これから、今までと同じスタンスのままであれば、経営者もスタッフも共倒れになってしまいます。つまり、自分中心でなくクリニック全体が最適になる発想で全員が協力して働かないといけない時代に入ったのです。 それでは、経営者とスタッフが一致団結するにはどうすれば良いのか、また、その上で具体的に何をすれば資金の捻出ができるのか、この大変な時代を迎えた今、クリニックができることについて、今号では真剣に考えてみたいと思います。
当然、資金を捻出するためには「収入を増やす」、または「出費を減らす」しかありませんが、一致団結して「みんなで頑張ろう!」という掛け声だけで成し得ることはできません。具体的な流れをご紹介しますので、ご参考にして下さい。
【手順①:危機感の共有】
現在、スタッフ(特に主婦)は、このままでは厳しいという認識を多かれ少なかれ持っていますが、この認識を世界情勢が原因と諦めていれば良いのですが、「この状況の中、給与を上げないクリニックが悪い」と、こちらに矛先を向けられると「賃上げの要求」に繋がり、それを渋ると退職を匂わせたり、または本当に退職したりという事態になってしまいます。しかし、経営サイドも、医薬品や消耗品、水道光熱費等々の値上げだけでなく、最低賃金のアップも含めコストは上がっているにも関わらず保険診療は値上げできず、厳しいのは皆さんと同じで、このまま何もしなければお互いに厳しいままで何も変わらないという「危機感」を、まずは共有します。
【手順②:「個々の利益は全体の利益から」を理解させる】
次に、給与は売上から必要な経費を引いた残りから支払っていること、つまり、売上を上げ経費を減らし、少しでも多く残せば皆さんに還元するお金が増えることを説明します。一見、誰にでも分かる簡単な理屈ですし、スタッフの皆さんも薄々は分かっているのですが、改めて説明することにより、結局、自分の給与を増やすためには全員で取り組んでクリニックにお金を残さないといけないことを明確に理解します。
【手順③:どうすれば良いか労使で一緒に考える】
危機感を共有し、全員で取り組まないといけないことが分かれば、「具体的に何をするか」を全員で考える場を持ち、思いつくまま書き出してもらいます(フセンを集めるワークショップでも可)。
売上であれば、売上の構成要素である「患者数×来院回数×単価」のうち、どれを上げるか、例えば、単価を上げることができなければ新患対策等によって患者数を増やすか、来てもらう回数を増やすかの取り組みとなりますし、支出については在庫を確認して無駄なモノは買わない、1回に使う量を減らす、電気はこまめに消す等々、ここまでで一体感が醸成されているため、多くの「案」が出されます。
【手順④:行動計画の作成と実践】
そして、最後に、意見をまとめ「誰が、何を、どのように、いつまでに」を決めた行動計画を作成し、定期的(朝礼・終礼等のときに)にチェックし成果が出れば還元します(完成)。
いかがでしょうか?今号では紙面で一気に概説しましたが、もし、取り組んでみたいので改めて説明して欲しい、または支援して欲しい等のご希望があれば是非ご相談下さい。