労務・人材活性化

常勤さんに何でも頼り過ぎていませんか?

経営VOL.161

先日、Kクリニックの院長先生から、『注意力散漫というか抜けの多いスタッフに、“常勤なんだから、もっと責任感を持って欲しい!”と伝えたところ、“いつも、常勤・常勤と仰いますが、常勤と非常勤で何か責任は違うのですか?何でも常勤がしなければいけないという考え方はおかしくないですか?”と反発されてしまいました。確かに、私も何でも常勤さんに依頼し、何かあれば常勤さんが…、と言っておりましたが、そのスタッフの言う通り、果たして「常勤」とは何なのか分からなくなってしまいました。この辺り、どのように考えれば良いのでしょうか?』というご相談がありました。

確かに、普段、常勤・非常勤、或いは正規雇用・非正規雇用という言葉を何気なく使っておりますが、パートさんでも、社会保険に加入して常勤さんと同じように働いている方もいますし、また、逆に、諸事情により常勤であるにも関わらず短時間の勤務をされている方もおられ、厳密に考えると非常に分かり辛いかと存じますので、この機会に、今号にて改めて『常勤とは何か?』を考えていきたいと思います。 

【そもそも、「常勤」の定義とは…?】
『常勤』とは『フルタイム勤務』とも呼ばれ、事業所の所定労働時間の全ての時間を勤務する形態を指し、『非常勤』とは、所定労働時間の一部の時間だけ勤務する形態を指すことが多く、一般的には、「1日の所定労働時間が8時間であって1週間の所定労働時間が40時間である者」が『常勤』で、それ以外は『非常勤』といわれています。
つまり、常勤=正社員(正規雇用)ではなく、たとえば、フルタイムのパートさんは『常勤』、正社員さんでも短時間勤務者は『非常勤』と定義されることが多いようです。 但し、これらは、明確に法律にて定義されているものではなく、事業所によって基準が違っていることもあります。

例えば、一部の国立大学では、労働時間の長さではなく、定年までの勤務を前提とする場合のみを『常勤』、それ以外を非常勤としていたり、医師の場合は「医療法第25条第1項に基づく立入検査要綱」に、『32時間以上勤務している医師を常勤医師とし、その他は非常勤医師とする』と定められていたり…。結局、『常勤』という言葉に、明確な定義が存在しないということが結論であり、逆にいえば、各事業所にて『常勤』の定義を決めてしまっても問題はないのです。

【それでは、「正社員(正規雇用)」の定義とは…?】
これも、法律で明確に定義されているものではありませんが、概ね、日本企業の雇用慣行では就業形態が先述の『常勤』、つまり『フルタイム』であり、雇用形態が事業所による『直接雇用(派遣や請負ではない労働契約)』で、雇用期間に定めがない(いわゆる「無期雇用契約」)という条件が揃った場合、初めて正社員(正規雇用)と呼び、世間的にも、この認識が一般化しているものと考えられます。そして、最近までは、この「正社員」が勤続年数を経ることでキャリアが形成されるという考え方から、責任のある仕事を任せ、その対価としての待遇を提供するという図式で成り立っていましたが、終身雇用制が崩れ、多様な働き方が登場し、雇用の流動化が激しくなった昨今、「正社員」とは名ばかりとなってしまっている事業所も多くなっているようです。

【Kクリニックの院長と整理をしてみました!】
常勤・非常勤、正規・非正規という言葉の意味が分かったところで、改めてKクリニックの院長と整理をしてみました。 まず、先日注意して反発されたスタッフさんですが、働き方は「常勤」で、雇用形態から「正社員」と呼んで差し支えなく、かつ、頼りにし評価もしているから、その分の給与・賞与も支給していますので、やはり、これまで通り、責任のある仕事を任せ続けたいという院長の気持ちを確認しました。

次に、このスタッフさんが言う通り、何でもかんでもお願いしていた院長の姿勢を反省し、改めて期待する業務(仕事に対する責任は常勤・非常勤等問わず同じだが、出来ているのかどうか等、全体の管理をして欲しい)を明確化し、その新たな責任に伴う対価(管理手当)を支払うことを決め、再度、面談をした結果、大いに納得して頂くことが出来ました。

【「雇用形態」や「就業形態」ではなく、「役割」と「職責」】
いかがでしょうか。普段、何気なく使っている「常勤」や「正社員」という言葉に明確な定義はないことをご理解頂けましたでしょうか。結論としては、『就業形態や雇用形態が違っても仕事に対する責任は変わらず、違いは各形態に応じ事業所で決めた「役割」と「職責」であり、経営者はこれを評価するだけで良い』と考えるとスッキリするのではないかと存じます。
もし、現在、常勤・非常勤により任せる業務が不明瞭になっている先生、常勤さんにだけ負荷を掛けていると感じている先生におかれましては、一度、ご相談頂ければ幸いです。

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