今年最初のご訪問時、年始の挨拶もそこそこに、会員のK先生から、『当院では、残業する場合は事前に申請し、院長の私が承認したものだけを残業と認め、事前に申請できなくても事後で申請書を出させていましたが、最近、それが全く守られていないのです。給与計算をしてくれている妻から、このところ残業代が多いと聞き、最近、患者さんもコロナ前ぐらいに戻っていたので診療が延びたことが原因と思っていましたが…、どうもそれだけではなく、言い方は悪いですが、勝手に残業しているそうなのです。どうすれば良いでしょうか?』というご相談がありました。他にも、以前やっていたのに知らない間にやらなくなっていることもあるそうで、院内ルールの徹底が今年の課題であると年末年始に考えたそうです。
K先生のクリニックに限らず、ほとんどのクリニックさんでは、就業規則とは別に、診療室を回すための「ローカルルール(独自ルール)」があると思いますが、そもそも「ルール」とは“必要”だからこそ定められたはずであり、それを守らないということは、現状、必要だった目的から逸脱した状態なのか、今の現場に則さない無駄なルールになってしまっているのかという2つが考えられます。しかし、「守るべきルールは守る」・「無駄なルールは無くす」という整理をしておかなければ、院長とスタッフ、また、スタッフ同士でも、お互いの認識違いが重なって混乱が生じ、コミュニケーション不全が生まれます。
そこで、今号では、K先生のご質問に回答する形で、どのようにするのが良いか実例を踏まえて検証したいと思います。
【なぜ守らないのか…?=守らなくても問題ないから!】
まず、今回の件については、スタッフさんに「“ルールは守って下さい”という指導をする」という形で面談したのですが、スタッフさんたちから出た声としては…、主に以下の通りでした。
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つまり、残業は毎日であり、誰も残業をしたくて残っている訳ではないし、出しても先生は見ず、出さずとも残業第は支払われているので「問題ない」と勝手に判断していたのです。
【残業申請のルールが出来た背景は…?】
そもそも、この残業申請のルールが出来たのは、まだ開業当時、患者数も少ない頃に当時のスタッフが、診療は定時に終わっているにも関わらず、皆で話をしながら何かしらの作業をしたり、まだ新しくキレイなのに掃除をしたり、明らかに『ダラダラ残業』が見てとれたので、それを防止するためでした。
そして、K先生も提出された申請書を見て、それは必要な業務なのかどうか、また、K先生自身が指示した業務でも、この時間でなければ出来ないのか等、当時のスタッフと話し合いながら院内ルールを作っていたことを思い出しました。
今は当時と違って患者さんが多く、診療時間中に隙間時間を作るのはほぼ不可能で、どうしても、昼休みを使ったり、午後診療後に残ったり、本当はいけないことですが家に持ち帰って作業をしたり、というのが常態化しており、残業申請のルールも今に合わない「形骸化」したルールだったのです。
【「院内ルールの見直し」と「業務の棚卸」を実行!】
今回の件を受けて、K先生は、まずスタッフに「残業申請の件も含め、現在、院内にあるルールを全面的に見直さないか?」と持ち掛け、次の観点で仕分けを行いました(↓)。
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そして、勤怠上のルールだけでなく業務上のルール(マニュアルも含む)も見直すため「業務の棚卸(全ての業務を書き出すこと → 毎日・毎週・毎月・不定期で区分)」を行い、一気にムダなルールを改め、業務効率化(ムリ・ムダ・ムラの削減)を行いました。このやり方は、改めて別の機会にお伝えしますが、今回分かったことは、スタッフも日々疑問に思いながらも従っていたことが多かったこと、またK先生自身も、「スタッフがルールを守る」ことに拘っていたということです。
【よく出来た体制=維持することが目的となる=✖】
巷では、よく出来た「マニュアル」、「ルールブック」や「制度」などが出回っております。もちろん、それ自体は本当に素晴らしいものが多いのですが、それを「導入すること」、「堅持すること」を目的としてしまうと、本末転倒となってしまいます。
つまり、目的とは『何のために』であり、これを導入することで、また、このルールを定めることによって、何を達成したいのかという「本質」が重要で、その導入なり定めたものが、目的達成に沿ったものになっているのか、人間でも定期的に健康診断を受けるように、組織も生き物なので定期的にチェックする必要があるので、是非、実施してみて下さい。