先日、顧問先のEクリニックの院長からご相談がありました。『理想の医院づくりのために、色々と実践したいことがあります。スタッフの協力も不可欠なのですが、どうしてもスタッフに私の意図を分かってもらえず、思うように動いてくれません。この前も、セミナーで良いと思ったツールがあったので、それを導入しようと説明したのですが、スタッフの反発を受けて、結局、断念せざるを得ませんでした』とのことでした。
また、加えて、Eクリニックでは、早期に退職するスタッフが少なくなく、常時、診療体制を維持するのが手一杯の状況が続いており、理想に想いを馳せるものの遠のくばかりの現実に、院長先生は日々、悩んでおられるご様子でした。
院長の「考え」や「想い」が伝わらず、なかなか思い通りに運営ができないというご相談は少なくありません。もちろん、スタッフたちの「資質」の問題である場合もありますが、スタッフたちの資質は十分あり、院長も熱意があるのに、なぜか上手くいかないケースも多く見られます。お互いにヤル気はあるのに上手くいかない…、その原因は何なのか、今号にて検証してみたいと思います。
【院長の「考え」・「想い」は『共有』できていますか?】
まずは、院長のお考えがスタッフたちと『共有』されているかどうかが重要です。中小規模のクリニックでは、院長のお考え=医院方針といっても過言ではありません。
その考えが共有されていないと、スタッフはどのような行動がその考えに沿うものなのかが理解できず戸惑ってしまいますので、共有するための時間を設ける必要があります。
Eクリニックでは、今後の方針や新たなことを導入する場合、その都度、朝礼やミーティングで時間を取って院長からお話しをされて共有しているとのことですが、現状は冒頭のように反対されることが多く、遅々として進まないようなのです。
そこで、原因を探るために主任スタッフにお話を伺ってみたところ、「確かに、今後の方針や業務についての話はあるが、簡単な説明をした後に、『このように決めたので、あとはお願いします』という、一方的な報告で終わり、スタッフ側としては、前と言っていることが違う場合が多いし、いつも発表が突然で、以前から取り組んでいることをどうすれば良いのか等、理解できないので戸惑っているのが現状です」ということでした。
院長の医院なのでトップダウンで何でも決めることについては当然と受け入れているが、余りにも説明がなく結論だけ放り投げるので、ついていけない人は退職する、とのことでした。
【院長の考えを『理解』させるためにはどうすればいいか?】
まず、院長の考えをスタッフに「実行」してもらうためには、結論だけを伝達するだけでなく『理解』してもらうことに努めなければいけません。例えば「これを導入するのは、当院のウィークポイントである、この部分を改善するためである」という「目的」、そして、「こういうクリニックにしたい」という「目標」、その上で、「こうして欲しい」という「具体的な行動」まで説明することで、ようやく『理解』してもらえる状況になります。
Eクリニックの院長も、流石にこの程度の説明はされており、それでも反対されていたのでスタッフの「資質」の問題かと考えておられましたが、先述の主任の話からも分かるように、残念ながら全くと言って良いほど伝わっていません。スタッフからすれば院長の説明は「簡単」であり、「結論」と「丸投げされた」ということしか頭に残らないために反対するのです。
【意外と見落とされがちなポイント…「確認作業」】
情報は「伝えたこと」ではなく「伝わったこと」が結果であり、せっかく朝礼やミーティングで時間を取って説明しても伝わっていなかったら時間の無駄であり、お互いにストレスとなってしまいますので、まずは説明したことについて「確認」をします。
具体的には、話の冒頭に「あとで皆が理解しているか確認します。理解できなかったことは質問して下さいね」と宣言して、話の途中でも最後でも良いので「理解した人」と挙手を求め、周囲を窺って自信なさ気に挙手しているスタッフがいれば「これはどういうこと?」と理解を深める質問をしてあげるのです。そして、質問が出たら、そのポイントが説明不足であることが分かりますので、その場でおさらいをしてあげます。これで、少なくとも、どこまで伝わったのかは分かります。
【「理解→確認」だけではなく、「共感→納得」まで必要】
理解が確認できたら、次は「やらされ感」なく動いてもらうために「共感」と「納得」を得るように努めます。つまり、「なるほど!確かに!」という“腹落ち”の状態に持っていくのです。
具体的には、例えば「これを導入せず、このままなら当院はどうなる?」から始め、「そうなれば、患者さんはどう思う?」→「当院で働いている皆さんはどうなる?」というように、どんどん質問を重ね、自分の口で答えてもらいます。もし、意図した答えではない場合、「じゃあ、こうなったらどうなる?」とさらに質問を重ねると、最終的に、今回の決定は正しいものとして認知します(毎回、このようにスムーズに運ぶとは限りませんが、概ね、この流れをご理解頂ければ良いかと存じます)。
熱意ある院長とヤル気のあるスタッフが一緒になって上手くいかないはずはありません。もし、そうでないなら原因が双方にあるのではなく「伝え方」と「その手順」にあるということです。