2007. 4. 18
いよいよ開業日 :診療開始前:前編(第46話)

Category 新規開業医の悲しい物語

今日は、記念すべき「クリニックの開業日」。

9時に診察開始ではあるが、8時前に出勤した。

内覧会も行ったし、電話帳にも掲載した。駅の看板も大きいスペースを確保した。ただでさえ80名は最低来る場所なんだから、初日は少なく見ても内覧会の参加者の半分である20人は来るだろう。

失敗の無いようにしなければ…!

徐々に、“気合い”が“気負い”に変化しつつあったが、当然、自分では気付かない。

院内をキレイに掃除する。しかし、新しいので全くと言っていいほど汚れていない。

時計を見ると、まだ8時30分…、もう気の早い患者さんなら来るかも知れない。

そんな大事な時間なのに、スタッフはまだ来ない!

15分前出勤で構わないと言ったが、初日ぐらい早く来てもいいだろう!全く気が利かない!
と、イライラしている時に、「おはようございま~す!」と明るい声で受付の寺内さんが入ってきた。

「今日は初日なんだから、もう少し早く来れないの?患者さんが待ってたらどうするの?」

最初が肝心だ。バシッと言ってやらなければ!という佐川氏の言葉が頭をよぎる。

「…すみません。」

明るい声のトーンが沈んだ。

本人からすれば15分も早く来たつもりなのに、小言を言われるなど夢にも思わなかっただろう。

あとから聞いた話だが、寺内さんはオープニングスタッフとして、自分なりに自分の役割を果たそうと思って緊張し、昨晩なかなか寝ることが出来ず、2~3時間しか寝れなかったそうだ。

それでも朝5時に起きて、ご主人と子供の弁当を作り、朝食を食べさせ、上の子を学校に送り出してから、下の子を保育所に預け、洗濯を済ませ、昼食の準備をしてから、少しでも早く出勤し開院に備えよう!と、自転車を飛ばして出勤して来たらしい。

それが、「もう少し早く来れないの!?」と言われた日にゃ…。

子供を持つ主婦の朝の15分というのは非常に大きく、それを早めるということがどれほどの労力なのか、当時の私は全く知る由もなかった。
明日へ続く・・・

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2007. 4. 17
開業前日 :(第45話)

Category 新規開業医の悲しい物語

クリニックの開業届も無事に終了し、スタッフの採用も完了。そして、内覧会も実施した。電子カルテの研修も行い、接遇研修も済ませた。

新聞折込広告も5紙に入れ、駅看板も階段を上がった目の前の大きなスペースを確保した。これで月々8万円。更に、電話帳の広告も半ページ分の大きなものにし、ホームページも70万円かけた。

加えて、駅の反対側への対策として、電柱広告も手配した。ポスティングは、そこまでやらなくても患者さんは来るだろうという事で行わなかった。

これらは、全て自分で判断した。しかし、全て佐川氏の提案通りだ。

かつての自分は、よく分からないまま“お願いします”と言って丸投げしていたが、これらは、全て説明を聞いてから“お願いします!”と言っている。

何が違うのか?

それは、“納得度合”だ。結果責任を潔く負える。「自分で決めたことだから!」と。
今までのように、自分の不甲斐なさを棚に上げて、人のせいにしたりしない。

内装工事費用は手直しが何回か入り約150万アップし、医療器械のリース料も何だかんだと約15万円にまで膨らんでいた。見積書から漏れていた追加の医療器械があったためだ。

もう、この時点で、トータルコストが幾らなのか全く分らなくなっていた(後々、目が点になるのだが…)。
しかし、これも自業自得だ。予定よりオーバーした金額については、授業料と思い、診療でカバーしよう。

クリニックの内覧会は、粗品進呈と書いた効果なのか、約40名が訪れた。

「キレイな医院ね~、私は昔っから胃腸が弱くてね、必ず来るから診て下さいね。」
「主人がストレスで胃が痛いって言うのよ~。今度連れて来ますからね。」

などと、かわるがわる声を掛けて下さる。

この内覧会で妙な確信を持ってしまった。

「やはり、皆さんはこのクリニックに期待してるんだ。よ~し、頑張らないと!」

いよいよ明日は開院日だ。

「皆さん、明日から宜しくお願いします!」

今回採用した、看護師の岡野さん(仮名)、岩木さん(仮名)、それに受付の寺内さん(仮名)、加藤さん(仮名)の4名は、元気良く「宜しくお願いしま~す!」と帰って行った。

明日へ続く・・・

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2007. 4. 16
開業手続 :後編(第44話)

Category 新規開業医の悲しい物語

吉村氏に連れられて、クリニック開業の申請へ初めて「保健所」に行った。

何課だったか忘れたが、その窓口の前に立った。そこでは、何名かが仕事をしていたが、こちらには目もくれない。

そして、吉村氏が小声で、

「あの…、すみません…。」
「あの…、すみません…。」

と2回ほど呟いた後に、一番手前の席で仕事をしていた人が、仕方なしに立ち上がり、

「はい、何ですか?」とぶっきらぼうに応えた。

何ですかとは、何ですか?こちらは、用事があって来てるのだ!

そちらも色々な書類受付をするところなら、“何か提出しに来た”という察しぐらいつくだろう。
あえて、見て見ぬ振りをしているように見えてしまう。

また、電話も鳴りっ放しで誰も取ろうとしない。10回ほどコールされた後に、書き物をしていた中年男性職員が仕方なく受話器を取っていた…。

私は、今まで、電話をかけて相手が出ない時は「不在」だからとばかり思っていた。

日本全国の保健所すべてがこのような対応ではないと思うが…。

「あの…、クリニックの新規開業の書類を持って…」

「そうですか、こちらにどうぞ!」

吉村氏の話を遮って、“面倒だから早くしてくれる?”とでも言わんばかりの対応だ。

「すみません、これがクリニックの新規開業の書類です…」

“すみません…”って、何故謝るんだ?口癖なのか?まったく…!

と、何気に書類を見ると…、え?全ての書類に私の印鑑が押してある…。

窓口でこんな事を聞く訳にもいかないので、書類が受理され保健所を出た時に吉村氏に聞いた。

「私のハンコが何故押してあるのですか?」

「はぁ…、実印ではないものですから…。大体、私どもで押して出してますが…?」

いや、実印とかそんな問題ではなく、勝手に書類にハンコを押しているというのはどういうことだという話なんだが、彼は、意外なことを聞かれたような表情だ。いちいち口を挟む私が非常識なのか?もう、よく分からない…。

保健所を出た足で、社会保険事務局に赴く。ここに到っては、カウンターすらなかったし、入口で手の空いてそうな人に声をかけてようやく作業台のような机に通されたが…。

これでは、不審者が来ても分からないだろうし、また、色々な医院の色々な申請書類があちこちに置いてある。というか、むしろ散乱していると言った方がいいだろう。個人情報保護も何もあったものじゃない!いいのか?これは…。

役所って…、こんなものなのか?自分の管轄が、たまたま“いい加減”なだけで、他所はこんなことはないと思いたい。

 

明日へ続く・・・

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2007. 4. 13
クリニック開業手続 :前編(第43話)

Category 新規開業医の悲しい物語

早いもので、もう8月になった。とうとう、我がクリニックの開業は来月だ!

最初は、佐川氏に任せ切りで、自分では全く何もせず考えもしなかったが、吉田先輩に再会し、「自分のクリニック開業に責任を持つ!」という当たり前の決意をしてからは、何をするにしても自分の考えを述べるようになっていた。

まだまだ、嫌な顔をされたり、機嫌を悪くされたりはするが、自分自身の成長を感じる。

そんな折、医療専門税理士事務所の担当である吉村氏(仮名)から連絡があった。

「先生、明日、保健所に同行して頂けないでしょうか?待ち合わせは、朝の9時少し前に○○駅の西出口で…」

相変わらず、声が小さい!温厚な私でもイライラする。

「何のためですか?全てお任せしているはずじゃ…?」

「ええ、確かにそうなんですが、その後、社会保険事務局にも行きますので、先生がおられないとダメなのです」

だから…、何故、前日に言うかなあ…?

本当に私本人が行かなければいけないのかどうかは分からない。しかし、本来は自分でやらなければいけないことだったし、吉村氏に任せ切るのも不安だ。

また、一度、これから何かとお世話になる役所関係も見ておいた方がいいだろう…。

「分りました。それではご一緒します」

明日へ続く・・・

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2007. 4. 12
クリニックスタッフ採用の極意?(第42話)

Category 新規開業医の悲しい物語

「さて、田辺さんはここまでどれぐらいで来れましたか?」

早速、佐川氏が口火を切る。

「はい、20分ぐらいです」

よく見たら、履歴書にちゃんと書いてある。

「何故、このクリニックを志望されたのですか?」
クリニックでの勤務経験はありますか?」
「お子さんは何人ですか?」

矢継ぎ早に質問をするのはいいが、どれも履歴書に書いてあるだろう?

何故、書いていることをわざわざ聞くのか、さっぱり分からない。

今日の面接が終わってから佐川氏に聞いてみたら、何と…、

先生、それは“あえて”聞いてるんです。最近は、履歴書に嘘を書いてくる人もいますのでねえ…。やはり、時々、履歴書と違うことをうっかり答える人もいますよ。特に、履歴書を完璧に埋めるタイプに多いですね。」

要は、採用されたいがために、本当は遠くに住んでいるのに“近い”と言ったり、子供がいるのに“いない”と言ったり…。本当に、そんな人が存在するのか?

クリニックを開業していらい、何回か面接をしたが、そんな人は見たことがない。また、そんな嘘は採用したらすぐにバレるだろう?

田辺さんも最後の方は怒り気味に帰っていったではないか…。少なくとも、そんなことをしそうな人には見えなかったし、むしろ、誠実、真剣に面接に臨んでくれた彼女に対し、不誠実に応えただけの気がして心が痛い…。

確かに、嘘をつかれる可能性が無い訳ではない。しかし、そこは“人を見る目”ではないのか?

「先生、ハッキリ言いまして、従業員の代わりなど幾らでもいますし、どうせパートなんか1年~2年しか続かないんですから、使いやすい人を雇っておけばいいんですよ!あと、従業員はしょせん“他人”なんですから、疑ってかかってちょうどいいぐらいなんです。これさえ頭に入れておけば、まあ、人で失敗する事はありませんわ。何せ、最初にガツンと言っておけば、あとは大人しいもんです。」

これを佐川氏は「極意」と言って憚らない…。

この疑い深さ、親父に近いものがあるなあ…。

「採用は“お見合い”と同じ!互いに理解し合って、一緒にゴールを目指しましょう!」

などというのは寝言なのか?

つまり、生き方そのものを変えなければいけないのか?

これについては非常に悩んだ…。

しかし、最初っから、このような接し方で従業員が気持ちよく働いてくれるはずがなく、多少のリスクがあっても自分の信念に従って、「心の採用、心の経営」をするべきなんだ!と開眼したのは最近のことだ。

 

明日へ続く・・・

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2007. 4. 11
スタッフ面接 :後編 (第41話)

Category 新規開業医の悲しい物語

「田辺(仮名)と申します。本日は宜しくお願い致します!」

30分以上待っていたにも関わらず、折り目正しい元気な挨拶をしてくれた。28歳の主婦だ。

やはり、“礼儀正しい”というのは気持ちのいいものだ。

履歴書も立派だ!達筆であり、不備なく全ての項目を網羅し、紙面から真剣さが伺える。

信じられないことかも知れないが、最近、たったこれだけの挨拶すら出来ない人が急増している。
本来であれば、出来て当たり前の事で特筆することではないのだろうが、最近では新鮮に感じてしまう。

“入口から椅子に座るまで僅か数分ではあるが、既に、そこで大勢は決している”と、とある人事担当者が書いた本を読んだことがあるが、まさに、このようなことだろう。

ついでに言うと、履歴書の書き方もそうだ。いい加減なものが本当に最近は多い。

基本的に、履歴書というものは面接の元になるデータであり、書類選考というものがあるぐらい重要なのだ。その紙面を最大限活用して、何故、自分を少しでも理解してもらおうとしないのか?それとも真剣に採用されたいと思っていないのか?

文字の上手い・下手ではない。修正液を使っていたり、空欄が目立ったり、後は、特記事項も空欄でありながら、面接になってから色々と言ってくる人もいる。それなら最初に書いておけばいいのに…、と思う。

要は、面接をスムーズに進めるための礼儀だろう。

さて、この田辺女史は本当に気持ちいい!彼女が受付に座ってくれたなら…。どんどんイメージが湧いてくる。

しかし、クリニックの新規開業の場合は、スキルも重要なので、これだけで決める訳にはいかない…。

 

明日へ続く・・・

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